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「窓の外は……校庭か」


 窓を開けると爽やかな風と共に活気のある声が部室の中に入り込んできた。


 放課後の校庭では運動部員たちが部活動に励んでいる。

 窓からの景色には遮蔽物はなく、校庭からもシオンの姿は見えているだろう。


 この部屋に出入りする方法は1つだけ。

 部室の扉を潜らなければ、冷蔵庫の中のプリンを盗むことはできない。

 そう言い切ることができるかどうかは、この窓に全てがかかっている。


「言い切っちゃっていいと思うんだけどなー……」


 この部室は部室等の2階に位置している。

 窓から入ることは絶対に不可能とは言えないが、現実的な手段ではない。

 そんな侵入は外からも丸見えだ。


 今回盗まれたのはレアとはいえたかがプリン。

 そんな例外は省いても問題ないはずなのだ。


「んー、でもなー……」


 論理的には窓からの侵入はありえない。

 プリンのためにそんなリスクを冒すのは決して論理的ではない。


 しかし、人間は機械ではない。

 時には感情的に行動することだってあるのだ。


『悩んでるなぁ、シオン。眉間に皺寄せたって可愛いだけだぜ?』

『邪魔するんだったら静かにしててよ、サナ』

『邪魔なんてしねえさ。アタシだってこの謎の真相は知りたいんだ……。だからさ、使っちまえよ?』

『……』

『こんな確率の低そうなケースに頭を悩ますくらいなら、さっさとはっきりさせちまったほうがいい。お前にはそれができるだろ?』

『……ボクじゃなくて、サナの力でしょ』

『同じことさ。アタシだってシオンが望まねえと答えはわからねぇんだ』

『……わかった。サナ、"確認"を要求する』

『言ってみな』

『"プリンを食べた犯人はこの窓は通っていない"』

『"YES"』


 サナが答えを告げた瞬間、シオンの手が淡く光る。

 光の軌跡はシオンの手の甲に3センチ程度の線を刻み込んで消失した。


「ふぅ……YES、YESね。まあ、そうだよね」


 線は淡く桃色に光り、サナの魔力による浸食を啓示している。


 これでシオンは軽微ではあるものの代償を背負った。

 事件の解決時には浸食度合いに応じた清算が必要となる。


『ククッ、良かったなぁシオン。これで窓からの侵入はもう追わなくていいってことだ』

『ほとんどその可能性は無いと思ってたけど。でも、ここから先の推理にノイズが入らないのは助かるかな』


 "確認"に対するサナの答えは絶対だ。

 これで犯人は部室の扉を使用したことが確定した。


『まぁ、犯人以外が窓を使った可能性は残ってるけどなぁ。そっちも確認しとくか?』

『そんなことにまで使ってたら身が持たないよ……』


「お待たせ、容疑者たちを連れてきたわ!」


 声の方を見やると、三葉がふたりの男子生徒を引き連れて戻ってきていた。


 三葉は容疑者である写真部部員を呼びに行っていたようだ。

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