第62話 弟子、『儲けの鉄則』を知る

『伝説の名投資家12人に学ぶ 儲けの鉄則』。

これが、遥香が気に入った投資本だ。

12人の著名な投資家の投資法について、簡潔に纏められている良本だ。

投資法を知るうえで、遥香にピッタリだとよろずのが思って、持って来た本なのだ。



「ここ。」


遥香は、P32を指差しながら言った。



遥香が指差したところは、現金、債券、株式のバランスを取りながら運用するというところだった。

よろずのは、株式による運用しか考えていない。

それなのに、グレアムは、現金、債券、株式のバランスを重視した投資を推奨していた。

どうしてよろずのとグレアムの考え方が違うのかと思った。



「それは大金持ちの考え方だよ。」


よろずのが言う。


「大金持ちですか!?」

「そうだなぁ~、資産10億円超えたら、そういう風に考えたら良いと思うよ。」

「10億円ですか!?」


金額に驚く遥香。



『卵は一つのかごに盛るな』という格言があるように、投資では危険分散の考え方が一般的だ。

卵を一つのかごに盛ると、そのかごを落としたら、全部の卵が割れてしまう。

でも、複数のかごに分けて卵を盛れば、そのうちの一つのかごを落としても、全部の卵が割れることはない。

だから、複数のかごに盛るべきだという考え方だ。



しかしこれは、不注意でカゴを落とすからだ。

注意深く、カゴを落とさずに運べば良い。

運ぶ道が気になるなら、下見をすれば良い。

天候が気になるなら、予報を確認すれば良い。

カゴの強度が気になるなら、入れる前に確認すれば良い。



つまり、こういう事前の調査をしないから、複数のカゴに盛った方が良いと言われてしまうのだ。

落とさない自信があれば、一つのカゴに盛った方が効率的だ。



「言われてみればそうですね。」


よろずのの説明一言一言に頷きながら、遥香が納得する。


「ただ、資金が大きくなると、株式投資では適時に動くことが出来なくなる。」

「それはどうしてですか??」

「10億円もあれば、一度に買おうと思ったら、自分の買いで株価が騰がってしまう。だから、複数回に分けて、ゆっくりと買わないといけなくなる。売りも一緒。だから、『ダメだ、撤退。』と思っても、時間をかけないと売り切れないから、それだけ損するリスクが高まってしまう。」

「なるほど。」



よろずのの考え方としては、だいたい1億円を超える売買は、スイングでは難しくなってしまうと考えている。

だから、1億円以上になれば、複数銘柄への分散投資を考えなければならない。

10億円以上になれば、債券より、外貨への分散投資をしなければならないと考えている。



よろずのが説明すると、横から結衣が口を挟んできた。


「でも、萬野くんの投資法は、株式と現金の間を行ったり来たりしてるよね。」

「ええ。」

「そういう意味では、萬野くんはいつも株式と現金の分散投資をしていると言えるんじゃない!?」

「言われてみれば、そうですね。」


よろずの自身、自分が分散投資しているとは思っていなかったが、そう言われれば分散投資になるなと思った。

つまり、株式と現金のバランスを考えて、株式を0%から最大300%までに持って行く投資法だということだ。


「そうなると、やっぱり分散投資は大事なんですか?」

「うーむ・・・・。」


思いがけない結衣からの突っ込みが原因で、よろずのは遥香の質問に即答できず黙って考え込んだ。

これまで分散投資という自覚が全くなかったからだ。

急にそう言われて、『確かにそうかも』と考えたものの、それが正しいと言い切るほどの自信は無い。


「ゴメン、ちょっと考えさせて。」


珍しくそう言うよろずのだった。

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