第28話 弟子、白圭を知る
投資は対人戦だと言うことが、よろずのの思考方法の前提となっている。
遥香は、このことを十二分に理解した。
人は自分の為には頑張れなくても、他人の為には頑張れるということも理解した。
そうしたら、よろずのは、もう一つの話をしてくれた。
「『人が捨てる物を拾い、人が欲する物を与える。』と言う格言があるんだけど知ってる?」
「いえ、聞いたことないです。」
よろずのの問いに、遥香は素直に答えた。
「古代中国の大投資家である
「はっけい??知らないです。」
遥香の反応は、一般人のそれと同じだった。
投資家と言われれば、どうしてもバフェットらを想像してしまう。
だから、ここでは敢えて実像に迫る為に、商人、起業家、慈善家という言い方をする。
白圭は、周の首都である洛陽中心に商売していた。
彼の方針は単純明解で、豊作で困っている商品を買い取り、凶作で困っているところに持って行って売ると言うことを繰り返した。
その結果、巨万の富を築いた訳である。
白圭は、その富を、人びとを悩ます洪水対策として、治水事業に使った。
だから人びとは、白圭が富んでも恨むようなことはせず、それどころか、もっと富むように祈ったと言う。
「へぇ~、そんな人が居たんですか?」
よろずのから白圭の事績を聞いて、感動気味に遥香が言った。
「史記の
「はい。」
「それで、この白圭の考え方を株式投資に応用するんだ。」
よろずのが静かに言った。
つまり、よろずのが言うのはこう言うことだ。
皆が捨てている株を買い、皆が欲しがる株を売る。
ここで間違ってはいけないのは、捨てていると言うのは、普通に売っていることでは無い。
小売店に並んでいる商品は、売られてはいても、捨てられている訳では無い。
なら、捨てられているとはどう言うことか?
それは、売れずに、どんどん値下がりし、最後にはバッタ値で、『持ってけドロボー』状態になる。
この時の店主の心境としては、『いくらでも良いから引き取ってくれ!』と言うものだろう。
こう言う時が、捨てている状態だと、よろずのは説明した。
「そんなことが起こるんですか、本当に?」
「起こるよ、極たまにだけどね。」
信じられないと言う感じで遥香が言うと、よろずのは優しく答えてくれた。
「どんな感じになるんですか?」
「そうだね。数年に一度くらい、何もかもが売られに売られることが起こる。ちょうど、この間のコロナショックの時もそうだね。売られに売られた。」
「あー、確かにそうでしたね。日経平均が16,000円近くまで売られたんですよね。」
「そう、ああいうタイミングを待つ。ただ、ひたすら待つ。これが白圭の投資法。」
「なるほど、白圭の投資法ですか・・・・。でも、あんなこと、また起こるんですか!?」
「その前はリーマンショック、その前はITバブルの崩壊、更に阪神淡路大震災や、バブル崩壊なんかもあった。」
「東北の震災の時は大丈夫だったんですか!?」
「買われていたら同程度になっていただろうけど、リーマンショック後でそれほど騰がっていなかったからね。だから、さほど下がらなかった。」
「なるほど。」
「だからハルも、実際に始めれば、そう言う局面に必ず出くわす。まぁ、楽しみにしていたら良いよ。その時に気づくから。これが教わった状況だって!」
「期待して待ってます。白圭が買う時だから、当然あたしにも買う時になるんですよね。」
「そうだよ。ただ、注意しなければならないのは、買う為には現金が要るってことだよ。」
「現金ですか?」
投資を始めていない遥香としては、ちょっと分からない言い方だった。
「つまり、そう言う時に、既に株を買っていたら、新しく買うための現金がないでしょ。だから、そうなる前に、全てを現金化してないとダメだってことだよ。」
「投資をしてたらダメだってことですか!?」
「実際、直前に売り抜けるのは難しいからね。満足したところで売っておくのが最良だよ。」
「それはそうですね。分かりました。」
遥香が軽く納得しているのを見て、結衣は思った。
- それが簡単そうで難しいんだよ。これから泣くよぉ~~~ -
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