第7話 錬金術師、コイツ呼ばわりされる

二人のやりとりを、遥香は冷めた目で見ていた。

よろずのが、結衣がいうほど、スゴイ男に見えなかったからだ。


「結衣ちゃん。よろずの??さんって、本当にすごいの??あたし、全然信じられないんだけど・・・。」


遥香が結衣の袖を引きながら、耳元でコソコソと尋ねた。

結衣は、遥香の不遜な物言いに、ちょっとムカッとしながらも、納得できるようにとよろずのに話しかけた


「そうだ、萬野くん。あたし、3月に利確していいって言われたとき、全部売っちゃったからGW前の上昇局面では何も出来なかったのよ。やっぱり、売るのは早過ぎたってことだよね。」

「結果的には、そうなりますね。でも、4月の初旬までの弱い展開が続いていた間は、あの時売っておいて正解だったと思ってましたよね。」

「そう、そう思ってた。」

「でも、中旬以降の強い展開では、売らなかった方が良かったと思いが変化したんですよね。」

「そう。」


この年の相場は、2月から3月中旬まで上昇し、その後4月初旬まではダラッとしたものの、中旬から下旬にかけて一段高したのだ。

結衣は、このときのことを聞いていたのだ。



「どうしてそう思ったんですか??」

「それは、持ち株が無いのに、騰がったから。」

「そうですよね。つまり、騰がった後に下がって反騰したとしても、もう一度買い直せるほど下がった後に騰がってもらわないと後悔するってことです。すると、もう一度買い直せるほど下がる動きにならない限りは売れないってことになります。」

「うんうん。」

「買い直せるほど下がるかどうかなんて、下がり始めたときに分からない。だから、後悔しないように、事前に決めた段階で、少しずつ売るんですよ。」

「そっかぁ~、そうだよね。」


結衣は遥香によろずのの凄さを教えるために、敢えて自分の状況をよろずのに尋ねたのだ。

そして、よろずのはしっかりと諭してくれた。



でも、横でこのやり取りを見ていた遥香は、『結衣ちゃんって、新興宗教にハマりやすい人なんだ!?』と思っていただけだった。

遥香は、ちょっと可哀そうな子を見るような目で、結衣を見ていた。

その目に気付いた結衣は、『あれ??』と思った。

どうしてそういう目で自分が見られているのかが、分からなかった。



「どうしたの??」

「なんか、結衣ちゃんが痛々しくって・・・・。」

「なんでそういう発想になるのよ!!」


結衣としては、遥香の突拍子もない感想についていけていなかった。

だから、かなり強い口調で、遥香に言い返してしまった。



「だって、どう聞いても、コイツの言葉に上手く騙されてるじゃない!?」

「あたしのドコが、コイツに騙されてるって言うのよ!!」

「コイツ、普通のことしか言ってないよ。それを、なんか凄いこと言ってるみたいに聞いてる結衣ちゃんって、変だよ。絶対、変!!!」

「はぁ!?あんた何言ってんの!!!」


結衣は、遥香の一方的な言い方に対して、怒りがフツフツと込み上げた。

それを横で指刺されながら見ていたよろずのは、『コイツよばわりか・・・・』とため息交じりに冷静な目で思っていた。



正直なところ、遥香の反応は、よろずのとしては至極当然なものだと思っていた。

これまで本当のリスクをとったことのない、本当のリスクに対峙したことのない人は、どうしても言葉を軽く受け取ってしまう。

遥香も、よろずのの言葉を軽くしか受け止められないことから生じる嫌悪感を、結衣にぶつけているだけだと解っていた。


「はいはい、言い争いはここまで。」


仕方なく、そもそもの原因となっているよろずのが、いがみ合う二人の間に入った。


「でも・・・・。」


結衣が申し訳なさそうに言うので、よろずのは気にしていないことを笑顔で表現して、結衣の罪悪感を減らせつつ、遥香には言葉で教えることにした。

が、遥香はプイと横を向いて、よろずのの言葉なんか聞きたくないというオーラを全身で発散していた。


「えっと、遥香ちゃんだっけ??」

「・・・・・。」


よろずのの質問に、ムスッとした雰囲気だけでしか遥香は答えなかった。

先ほどのやり取りを見て、よろずのは結衣を上手に手玉に取っている相手だと思っているようで、自分は取られないようにしようと身構えているのが、よろずのには手に取るように伝わって来た。

それでも、ここであきらめても何も始まらない、敢えて言葉をつづけるしかないとよろずのは思った。

後で考えれば、ここで何もしなかったら、よろずのの懸念も減ったはずなのであるが・・・・。

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