紙の匂いがする文章、人間の層の厚みの魅力

  • ★★★ Excellent!!!

 少しレトロな言い回しがあったり、登場人物の方言の口調の書き方が、昨今は随分と見かけなくなったタイプで、小学校の図書館にあった分厚い文学集の中の一作品のよう。それが完全にイマドキ向きな現代口語訳をされたような読みやすさがありつつも、昔の文学の空気感が残っているため、ブラウザで読んでるのに紙の匂いを感じるという。だからといって、古臭いという訳ではないです。昔の文学の情緒的な良さと、今時の読みやすさの融合というか。
 それが、平成から昭和にタイムスリップしたというストーリー、文豪との絡みにすごく合っています。

 そして登場人物たちなのですが。
 一癖ある、なんてものじゃないという。何癖あるの!?というぐらい、これがまあとにかく尖がっていて。主人公の要もかなり複雑な子で、頑張りが空回りするような不器用な部分もあるし、男装もしてるしで、設定だけでも盛沢山。失敗して、転んで、何気にひどい目にあったり、恋なんかもしてみたりもして…。泥臭いというか、ああ人間臭いってこういう事だな!という感じの。

 彼らのこの癖ある感じが、上っ面ではない、人間味が濃い、人としての層の厚さに感じられて、物語をより深く、魅力的に、そして現実感を醸し出しているように思いました。

 一気読みもできる読みやすさではありますが、一話ごとのまとまりが良く、雰囲気の部分でも、朝の連続テレビ小説的でもあるので、すでに多くの話数を重ねている作品ですし、朝に15分という感じで、昭和初期の雰囲気を味わいながら、じっくり読まれるのもおすすめかなと。

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