05.「Sランクになったなら、パーティーに戻ってこない?」

店を出て、偶然に顔を会わせた俺とアリスはお互いに微妙な顔を浮かべる。


アリスとは幼馴染みだ。


ずっと長い時間を一緒に過ごしてきて、だからこそ急に離れた距離感を上手く処理できない。


それにアリスは戸惑いに加えて、気まずさも感じているようだった。


「久しぶりだね」


「ああ」


短いやり取りで、言葉が途切れる。


ああ、本当に、間が悪い。


「それは?」


アリスが、俺の持つ女性物の髪飾りに視線を向ける。


「拾った」


「そう……」


その事実ではあるけれどあまりにも説明不足な回答に、再びアリスが言葉をつまらせる。


「そういえばSランクになったんだってね」


まだギルドでレベルの確認をしてからたいして時間も経っていないのに耳が早い。


まあ冒険者同士の噂なんて、真偽に関わらず直ぐに広まるものだけど。


「ビダンは凄いね」


アリスたちは同じ期間でも俺ほどレベルは上がっていないだろう。


だけれどそれは、彼女たちが鍛練の他にギルドの依頼や人助けをしているから。


雑事が増えればそれだけレベルが上がるのが遅くなるのは当たり前のことで。


もちろん、俺がスキルのおかげで無理な修行をできたのも事実だが。


だからといって、それを凄いことだと胸を張る気にはなれなかった。


だからこうして、アリスの言葉を否定する。


「そんなことないだろ。…………、サンはレベルいくつになった?」


「ビダンと同じ81」


結局、スキルのアドバンテージを使ってひたすらに修行を繰り返しても、あいつのレベルに追い付くことしか出来なかったのか。


もう一度同じように山に籠れば今度こそ追い抜けるだろうし、そもそもレベルで勝つことに具体的な意味があるわけでもないのだけど、それでもやはり越えられなかったという気持ちが残る。


そんな俺の内心に気付いているかはわからないが、アリスが一瞬躊躇ってから口を開いた。


「ねえ、ビダン。Sランクになったなら、パーティーに戻ってこない?」


見つめるその瞳に揺れる思いは、たしかに俺に戻ってきてほしいと願っているようだった。


やる気がなくて追放された身だけれど、短期間でこれだけレベルを上げたならパーティーに戻っても文句は言われないだろう。


戦力としても、やはり俺がいないとバランスが悪いのかもしれない。


まあ俺自身にその気はないんだけど。


それに俺がパーティーに戻ったとしても、魔王討伐の目標を完遂できるとは思えなかった。


絶対に無理とは言わないが、命を賭け金にするほど分の良い賭けでもない。


「俺は他人のために命を捨てるつもりはない」


世界を救うとか全く興味がないし、そんなことに命を懸けるやつは馬鹿なんじゃないかとさえ思う。


「そっか」


俺の答えは予想していたんだろう。


それでもばつが悪そうにアリスが呟く。


「あのねっ、」


なにかを言いかけたその時、近くの店から見知った顔が出てきた。


「やあ、ビダン」


サンとアリス。


ここにいたのは偶然じゃないだろう。


「二人で買い物か?」


言った俺に、サンがアリスを一瞬だけ見てから答える。


「まあ、そんなところかな」


なら俺は、ここにいても邪魔なだけだな。


すれ違ってその場を去ろうとする俺に、サンが声をかける。


「あんまり無理はするなよ」


「俺を追放したお前が言えた台詞かよ」


それ以上語る言葉はなく、俺はひとりその場所を後にした。




さて、どうするかな。


修行をして、以前より一段階強くなったのは自分自身では感じられる。


だけれど、また再び修行に出ても俺が望む強さが手に入れられるとは思えなかった。


俺がほしいのは自分の望みを押し通せる強さだ。


まだ才能の限界を感じてはいないが、レベルをあといくつか上げたとしても劇的に強くなるようなことはないだろう。


なら強さを求めるにしても、別の手段を探す方が現実的だ。


それなら。


次の目的地はここから西に山をいくつか越えた先にある、伝説の地に決まった。




聖剣の契約者って称号は勇者様よりも凄そうでいいだろ?


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