最終話「波瀾の日々の幕開け」

「――さて、ここからは仕切らせてもらっていい?」


 夜見さんは、そう言って父さんの顔を見上げた。

 どうして俺の家のことで、父さんを差し置いて夜見さんが仕切るのか。


 普通ならそう疑問に思いそうなところだけど、俺はこの夜見さんの発言から、既に何か厄介事に巻き込まれているのだと理解した。


 そんなことを考えている俺をよそに、父さんは頷いて夜見さんに立場を譲る。


「とりあえず率直に言うと、明日からこの家は夜見、頼人、クロエ、そして華恋の四人だけで住むことになる」

「えっ!? 父さんたちは!?」


 いきなりとんでもないことを言い出した夜見さんに対し、俺はつい敬語も忘れてツッコみを入れてしまう。


「明日から、夜見の父の護衛として数ヵ月――下手すると年単位で東京に行く」

「えっ、聞いてない……」

「連絡がつかなかったんだろうが……」


 父さんが呆れたようにツッコミを入れてきたけれど、夜見さん経由で伝えることはできたはずだ。

 それをしなかったのは、俺が反対をするから隠すためだな……。


「えっと、じゃあ春華さんは……?」

「新婚さんだから、付いていきたいらしい」


「じゃあ、俺や早乙女さんも東京に行ったほうがいいんじゃ……? ほら、夜見さんの護衛の件もありますし……」

「華恋がね、ここを離れるわけにはいかないの」

「あっ……」


 夜見さんの言葉と眼差しによって、何が言いたいのかを俺は理解した。


 元々は東京に進出予定だった、ネコトちゃんたちのアイドルグループだけど、クララちゃんの不祥事で見送りになったんだろう。

 また地元で活動をしていくから、ここを離れるわけにはいかないというわけだ。


「でも、そうなると、ネ――早乙女さんと、二人だけ……」

「ふふ、わざと? わざとだよね? 夜見たちがいるってさっき夜見が言ったよね?」


 父さんと春華さんがいなくなる。

 となると、俺たちの家族として残るのは必然的に早乙女さんと俺だけになるため、そのことに触れると夜見さんが笑顔で首を傾げた。


 ちょっと、冗談が通じる空気ではなかったらしい。


「しかし、夜見さんたちに迷惑をかけるわけには……」

「約束」

「えっ?」

「約束、守ってもらわないとだめだから気にしなくていい」

「…………」


 もしかしなくても、夜見さんはここまで計算していたのか……。


「夜見とクロエがいれば、安心して頼人と華恋を残せるよね?」

「えぇ、セキュリティ面で言えば頼人一人で十分ですが、異性の二人を残していくのには不安がありましたからね」


「父さん、そこは信用してくれよ……」

「お前がよくても、華恋さんがそうとは限らないだろうが。とりあえず、ここは夜見さんに甘えさせてもらうんだ」


 うちのルールとして、父さんが決めたことは絶対。

 となれば、もう俺に抗える余地はなかった。


「お疲れ様です」

「クロエさん……」


 普段夜見さんに振り回されているであろうクロエさんが、優しく俺の肩をポンポンッと叩いてきたので、俺は何かがグッと込み上げてきた。


「ふ~ん……」


 しかし、夜見さんが何か言いたそうに俺とクロエさんをジト目で見つめてきたので、俺たちは一瞬にして距離を取る。


「ふん――と、まぁここまで決めてしまったけれど、問題ないかな? 一応、君が望む形を優先したつもりだけど?」


 夜見さんは面白くなさそうな表情で体の向きを変えると、今度は早乙女さんに声をかけた。

 どうやら、既に何かしらの形で彼女にも接触していたようだ。


「あっ、はい……。風早君のことは驚きましたが……」

「君にとって、最高な形でしょ? だって、同棲だもんね?」

「~~~~~っ!」


 夜見さんが何かを耳打ちすると、早乙女さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 いったい、何を言ったんだ……。


「頼人」

「はい?」

「これから先、頼人は夜見の護衛。だけど、同時に華恋の護衛にもなってもらう」


「えっ……?」

「か弱い女の子が一人増えるくらい、君なら問題ないよね? 一応、クロエもいることだし」

「お嬢様!? 私はついでですか!? 私の扱い雑すぎません!?」


 夜見さんの言葉にツッコミをいれるクロエさんだったが、夜見さんはあっさりとスルーし、クロエさんは肩を落として落ち込むのだった。


「――か、風早君……」

「ん? どうしたの、早乙女さん?」

「えっと……これから、よろしくお願いします……」

「あっ――そうだね。なんだかとんでもない形になったけど、これから家族としてよろしくね」


「えっと……家族だけじゃなくて……いろいろと、お願いします……」

「えっ?」


 てっきり新しい家族として挨拶をしてきたのかと思ったのに、なぜか早乙女さんは指をあわせてモジモジとしながら否定をした。

 だから俺は、その言葉の意味を考えるのだが――。


「――やっぱり、あんなことしてるだけあって、見た目によらず積極的……」


「「――っ!?」」


 いつの間にか、夜見さんがジト目で俺たちを見つめていたので、それどころではないのだった。


 ――こうして、四人だけで暮らすことになった俺たち。


 俺は約一ヵ月ぶりに登校すると、クラスメイトたちに囲まれて問い詰められることになったが、その次の日に夜見さんが俺のクラスに、そしてクロエさんが一つ上の学年に転校してきたので、一瞬にして学校中は彼女たちの話題で持ち切りとなる。


 しかし、夜見さんが俺と同棲していることを漏らして牽制すると、男子たちはあっさりとクロエさん一筋に切り替えた。

 クロエさんを犠牲に一件落着――と思いきや、今度はなぜか委員長が夜見さんに凄く質問攻めを始めたのだが、こちらも夜見さんが何かしらの交渉をするとあっさりとおとなしくなった。


 そして――。


「今日からよろしくね、風早君♪」


 なぜか、委員長も俺の家に住むことになり、今までとは打って変わった波瀾の日々の幕開けになるのだった。


「――いや、うん、嘘だよね?」

「よかったね、全て本当のことだよ」


 俺があまりの状況に驚きを隠せないでいると、この状況を作り上げた夜見さんが、とても素敵な笑みを浮かべた、というのはここだけの話だ。



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あとがき


今まで、この物語を読んで頂き、ありがとうございます。


更新がかなり開いてしまったりと、皆様にはご迷惑をおかけしたと思います。


実は、ネコクロは五月から執筆活動の専業になりますので、

一旦お仕事が落ち着き次第、

たくさんの連載をしていきたいと思います♪


これからも、ネコクロが携わる作品たちをよろしくお願い致します!


※なお、2月25日に発売した

 『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』

 が発売日から売り切れ店続出というほどに売り上げが絶好調なので、

 もしよろしければそちらも書店様でお買い求めいただけますと幸いです♪


また、新連載の『幼馴染みいないんだよなぁって呟いたらよく一緒に遊ぶ女友達の様子が変になったんだが』も、どうぞよろしくお願いいたします!


ではでは、次の作品でお会いしましょうノシ

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