男子校に入学したはずなのに、異世界の魔物と戦う件:青龍組(ユウキ)

 お師匠様との旅は、とても気を遣う。いや、もちろんお師匠様が悪いわけではなく、こちらが勝手に気を遣っているだけなのだけど。


「お師匠様、お飲み物のご用意ができました。」


 あらかじめセレスさんから渡されていたお水に、いつもお師匠様が持ち歩いているシイタケ茶と昆布茶のブレンドしたティーパックを使う。


「うん。おいしい。」


 こんなのを持ち歩いている設定がいつ生まれたのかは知らないけど、お師匠様がしあわせならいい。


「いつも言ってるけど、気を遣いすぎずともいい。」


「そ、それでも習字の指導料って本来はすごく高いんじゃ……。」


「気にしなくていい。」


 お師匠様、という呼び方にはこだわるくせに根本的なところは気にしないのは、お師匠様の謎なところだ。


「私の美学。」


 心を読んで答えられましても……。


「そういえばお師匠様、私たちが討伐する青龍というのはどのような妖怪なんでしょうか。」


「帰着後レイナに質問。」


 お師匠様は寡黙な方なので、滅多に自分で説明なさらない。カヅキ以外には。


「彼は許婚。あなたにも譲らない。」


 面倒な人でもある。


「うるさい。心が。」


「も、申し訳ありません!」





「到着。」


 お師匠様がなぜ道を知っているのかはわからないが、セレスさんに指定されたという場所につく。


「なんか、和風ですね、ここ。」


「私たちには落ち着く。」


 いかにも和風な建物、人々の着物だ。


「団子二本。」


 お師匠様は早速くつろいでいらっしゃるし。


「って、それ軍資金ですよ!」


「腹が減っては。」


 腹が減っては戦はできぬ、じゃないんですよ。青龍なんてこんな平和な場所に出るものなのかしら。


「龍は港の方に出るらしい。」


 私がくだらないことを考えている間に、周りの人の心を読んで相手の居場所を特定したらしい。


「港はあっち。」


「ま、待ってください!」


 すごく自分勝手だが、優秀な人だと、あらためて実感した。





 港の近くまで来ると、すごい人だかりができている。もしかして、龍がもう出てきてしまったのだろうか。


「もういる。」


「そんな!急がないと、お師匠様!」


「もち。」


 二人で何とか人ごみをかき分けると、その中心にはヤクザがいた。上半身は裸で、背中には龍の刺青がある。


「もしかして……。」


 あの人が、龍が人間に変化した姿なのだろうか。それにしては、魔力や超能力のようなものを感じない。


「あれが『刺青の龍』。略して青龍。」


 オチがひどすぎる。


「っていうことは、青龍っていうのは、あの龍のことを指してたってことですか?」


「うん。」


 そんな風にお師匠様とやいのやいの言っていると、青龍さんが近づいてくる。


「おい嬢ちゃんたち、俺のシマでなにやってるんだぁ?おぉ?」


 とても怖い。しかもこの人、顔に縫い跡が露骨に残っているのは、どういうことかしら。刀にでも切られたとか?


「お姫様の依頼により、青龍の討伐に。」


「それは俺様のことかよ?」


「うん。」


 どうしよう、ヤクザの人を怒らせてしまうだなんて、お師匠様は何がしたいのだろうか。


「お前たちに俺を倒そうなんざできるかね?俺は漢だ、女に手は上げねえ。だが、無抵抗な俺でも、根性には自信あるぞ。」


 ヤクザさんがすごみ、周りの村人さんが「やめたげろぉ!」と叫ぶ。


「うるせえてめえら!村人Aは黙ってろ!」


 怒鳴られた村人さんは「ひぃぃ!」と叫んだ。


「さあ、勝負だゴラァ!」


 青龍さんが大きく振りかぶって、お師匠様に殴りかかる。


「心は読めてる。おそい。」


 お師匠様は当然完全に回避し、後ろに回り込むと、何かを取り出す。


「秘儀、画竜点睛。」


 お師匠様が青龍さんの背中にその何かを突き刺すと


「ぐはぁぁぁ!」


 青龍さんは叫び声をあげて倒れた。


あれ、勝負は一瞬!?まだ体はビクンビクン動いているけど。


「勝利。」


 ええ……こんな簡単でいいのかしら。というか、そもそも何を突き刺したのかしら。いくらなんでも毒とかを突き刺したりしていたら、危ない気がするし。


「まだ意識はある、ユウキ、とどめのRTX。」


 お師匠様が私の大好きないつもの調味料を持って行ってしまう。


「スプーン一杯をこいつの口に放り込めば……。」


 ぎゃあああぁ!


 青龍さんは今度こそ完全に動かなくなる。これおいしいのに。


「それは劇物。」


 お師匠様にたしなめられてしまった。だから、おいしいんですよ!?


「と、というか!あんなヤクザを倒すなんて、お師匠様、どんな危ない物を使ったのですか!?」


 よほどの毒薬とかだと、さすがにいろいろなところから怒られそうだ。


「シャー芯。」


「え?」


「シャー芯。」


「あの、シャーペンに詰める?」


「そう。」


 シャー芯の先にどんなものを塗ったのだろうか。ノビチョクとか、そっち系の危ない薬かしら……。


「なにも。」


「そんな毒ありましたっけ?」


「何も塗ってない。」


「いや、お師匠様、さすがに嘘は……。」


「本当。あのヤクザ、すごく痛みに弱い。」


「でも、背中に刺青が……。」


「あれは仲間に抑えてもらって入れたんだよ。」


 先ほど悲鳴を上げて逃げていったはずの村人さんが戻ってきた。


「それでも、目の部分を入れる前に逃げ出しちゃったんだけどな。」


 なんて貧弱な……。自分で決めたことでしょうに。


「でもあなたさっき、やめたげろって、私たちをかばってくれたじゃありませんか。」


「いや、あんたらに言ったに決まってるだろ、あいつ、二歳の娘に尻に敷かれてるんだぞ。」


 なんかほっこりする話だわ。


「あなたが悲鳴を上げて逃げたのは……。」


「いや、笑うとき、ひーって言っちゃう癖でさ。」


 確かに、そんな風にも聞こえたけど……。


「でもどうして、セレスさんはそんな人の討伐依頼を……?」


「それについてはおいらが話そう。」


 素に戻ると一人称がしょぼくなった青龍さんが、ようやく起きて話し出してくれた。


 でも、こんなに口の周りがタラコっぽい人だったかしら。


「何気にユウキが一番鬼畜。」


 お師匠様に、悲しいことを言われた。

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