男子校に入学したはずなのに、異世界の魔物と戦う件:玄武組(アオイ)

 私たちは現在、玄武とかいうモンスターを狩るために北へと駆り出されていた。


「それでレイナ、なんか策とかはあるのか?」


 なんでうちがレイナと組むことになっているのだろうか。そりゃ、一番に組みたいカヅキと一緒なんていうのは贅沢だが、せめて気心の知れたユウキと組めたらどんなに良かったか。もしくは、「陸上部の美姫」こと、カオリなら戦闘面での不安はゼロだ。


 オオカミ相手に残った時もそうだったが、こりゃあ死を覚悟させられるね……。


「もちろんですわぁ!お姉さま方の名に恥じないよう、ワタクシも頑張りますのぉ!」


 策があるならいいけど……。


 どうもセレスの勝手なイメージによると、うちらが現代兵器でドーン、みたいなのを想像していたらしい。いや、日本人が持っているわけないでしょうよ。


 ……と言いたいけど、実はうちのお姉ちゃんが持ってたりするんだよな。例外だけど。政府と取引をしているらしい。


 お風呂上りに聞いた話だと、勉強したのが横須賀と秋葉原らしい。なぜピンポイントでそこにしたのか……。


「ちなみに、どんな策か聞いてもいいか?」


「もちろんですわぁ!」


 というと、レイナは地図を出した。


「ここら辺は平原が広がっておりますわぁ。でもって、牧場があるらしいですのぉ。」


「その心は?」


「カメさんは乳製品を消化できませんのよぉ!」


 カメを飼っていたことでもあるのだろうか。


「玄武ってのがカメとそこまで一緒だかわからないから、気を付けた方がいいぞ。」


「大丈夫ですわぁ!そもそも、今回の四聖獣というのは、中国の四神と呼ばれる……。」


 意外と話が弾みそうで安心した。




「とまあ、以上の理由から玄武の弱点は乳製品に在り!ってことですわぁ!」


 なるほど、つまりそいつに乳製品をたくさん与えればいいのか。なんていうか、動物虐待みたいで若干気の引けるお仕事だな……。


「じゃあ、まずは、乳製品を仕入れるところからだな!」


 とウチが声をかけると、


「どうしてですの?ワタクシにはこの子、叢雨がおりますのぉ!」


 とごつい包丁を取り出した。あれ?この子、さっきのうんちくの話はどこへ?


「え、乳製品を食わせようって話じゃなかったのかよ?」


「そんなの、動物虐待みたいで気が進みませんわぁ。」


 どの口が……。


「じゃあ、動物虐待じゃないように倒すのか?どうやって?」


「すっぽん鍋にしてスタッフがおいしくいただくのですわぁ!」


 だめだこりゃ。そもそも玄武って神様がらみのあーだこーだでしょ、人間が食っていい物なの?


「じゃ、じゃあ、乳製品というのは……。」


「あ、でもでも、下味をつけるのもいいですわね!」


 もうこの子の御し方がわからない。はやくカヅキに会いたい……。





「おじさんすみません、ヨーグルトとチーズ、あるだけください。」


「はいよぉ、ちょっと待っててな!」


 うちらが何をしているか。玄武の出没地近くの村でヨーグルトとチーズを買い込んでいた。


 お姫様から渡された軍資金だが、まさかお姫様もこの大金(らしい)でヨーグルトとチーズを買っているとは思わないだろう。


 なにせ、大量に買ったからという理由でリヤカーを貸してくれるほど大量に買えた。


「アオイお姉様、もう限界ですわぁ……。」


「ウチももう無理、こんなに重いとは思ってなかった。」


 二人でなんとか、玄武の出るという小さな森までチーズとヨーグルトを持ってきた。でももう動きたくない。


「アオイお姉様、そろそろ奴が現れるころですわぁ。」


 決まった時間に現れるらしい、それも、割と昼頃に。


「何でこんな早い時間に出てくるんだろうな。」


「ここはかなり北方。そしてカメは寒いと冬眠するため、夜は動けないからだそうですわぁ。」


 もう聖なる獣とかやめちまえよ……。少なくとも、北の守りをするのは間違いだろ。


「お、噂をすればだな。」


 森の奥の方から、何かがやってくる気配がする。別に何か武道の達人とかってわけでもないのに気配というのが感じられるのは、それだけ相手がヤバいってことだろう。


「アオイお姉様ぁ、落ち着いてくださいですわぁ!」


 言われて初めて、自分が少し震えていたのに気が付いた、


「あ、ありがと。」


 ヨーグルト屋のおじさんがサービスでつけてくれたヨーグルトドリンクで落ち着きつつ森の奥の方を見守っていると、5メートルはありそうな、それはそれは大きなカメがやってきた。


「き、来ましたわぁ。あのサイズ、何日で食べきりましょうかぁ。」


「取らぬ狸の皮算用してもしかたないだろ。」


 軽口をたたきつつも、木の裏から見守る。さっきのレイナの豆知識によると、亀は嗅覚や聴覚もあるが、それ以上に雑食らしい。なんでも食べちゃうんだとか。


「た、食べてますわね。」


「そうだな。すごい勢いで食べてるけど、足りるかな……。」


 バクバクとヨーグルトを食べているカメ……玄武だけど、それはそれは元気そうだ。





 必死になって運んだヨーグルトとチーズを、玄武と呼ばれる巨大亀が、昼間の森でむさぼり、それを見守る二人の少女……我ながら変な状況をどれだけ続けたろうか。


 玄武は、すべて食らいつくした後、のっそりと頭と手足をしまって、寝てしまった。


「念のため眠り薬も仕込んでおいて正解でしたわぁ。」


 レイナがそういうと、先ほど叢雨とか何とか呼んでいた包丁を取り出す。


「さっさとしめて、すっぽん鍋にしますわよぉ。」


 さらに重くなったリヤカーを引いて、先ほどヨーグルトとチーズを買った村の近くへ戻り、村の炊き出し用の大なべを、無理を言って貸し出してもらう。


「こんなに簡単に行ったのはレイナのおかげだ。ありがとうな。」


 そして心の中で乗り気じゃなかったことを心の中で謝らせてくれ。


「お安い御用ですわぁ!そしてこれからが戦ですわよぉ!」


 村の人に玄武を退治したことを告げて回り、水やら具材やらを持ち寄ってもらう。


 ヨーグルトやチーズで味付けをしたせいで、本来であれば澄んだ色をするすっぽん鍋だが、白いスープになっている。


「みんなで宴という名の戦ですわぁ!」


 こうして、飲めや歌えやの騒ぎまで始まった。


「そういや……。」


 これを読んでいる皆様はもうお気づきだろう。この鍋に何が含まれているか。そもそも、こんな怪物をどうやって倒したのか、25行ほど戻って確認してほしい。


 そのあと、大惨事が起きることになった。


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