男子校に入学したはずなのに、異世界に拉致られたのでついでに救うことになった件

「ここが王城ですわ。」


 セレスさんに案内され、それっぽい城につく。


「ここが謁見の間ですわ。」


 セレスさんに案内され、それっぽい部屋につく。


「ここがゲストルームですわ。」


 セレスさんに案内され……


「待て。先にみんなに会わせてくれないか。」


 一応、みんなが無事であるとは聞かされてはいても、心配になるものは心配になる。みんな俺を守って残ってくれていた訳だし。


「それは無理ですね。」


「な、なぜだ。」


「そんなの、ユウリさんの反応を見ていればわかりますよ。」


 ユウリの方を見ると、再びセレスさんを疑う表情をしている。まさか……だまされたのか?


「あなたが愚かだったというだけの話です。」


「クソ、騙したな!」


 ユウリが叫ぶと、セレスさんはむしろ俺の方を向いて、


「騙されたと思っているのはこちらですよ。」


 とにらんでくる。なんで。


「俺が何をしたっていうんだ!」


 俺はセレスさんとほとんど話した記憶はない。とすれば、もしかして、ずっと前にユミコとユウキが用意すると言っていた家やらなんやらに不具合でもあったのか?


「あなたが優しそうにするせいです。それがすべていけないんです。」


「ちょっと、俺は何も!」


「カヅキ、今はもたついている場合か!合わせろ!戦うぞ!」


 ユウリの方から伝わってくる殺気のようなものが膨らむ。ご都合幽霊パワーか。


「ここで私に逆らおうなど、愚かなこと!」


「うるさい!絶対に逃げ切ってやる!」


 もう戦うしか道はないか……!


 そう諦めたときだった。


「あれ?カヅキ?なにしてるの?」


「アオイ!?」






「つまり、俺がみんなに会えないのは、みんなが風呂に入っているからってことか。」


「そうそう。セレスは結構いい奴でさ。話しているうちに、ぽろっとカヅキが男だってことを話しちゃったんだよ。」


 だが疑問はまだ少し残る。


「ユウリの反応を見ていればっていうのは?」


「それはうちから言うのはアンフェアだなぁ。時が来ればわかるさ。」


 アオイがなんかかっこいいことを言っている。


 こいつはいつも金髪だが、風呂上りはそれをバスタオルで巻いている。最後に見たのは合宿の時だったか。


「そうか。まあいいや。それで、この服は?」


 アオイはなぜかここが異世界だというのに、なぜか浴衣を着ている。こいつが女子だとわかった以上、一層色っぽく見えてしまうので本当にやめてほしい。同じ活発系とはいえ、カオリと違って出るところは出てるし。


「なんでも、日本の文化をある程度学んだセレスが作らせたんだと。で、本場の人間に来てみた感想を聞きたいらしい。」


 いろいろな意味で完璧すぎるから0点だろ。


「それとカヅキ、あんまりじろじろ見るな。そういうのはうちと恋人になってからにしてくれ。」


 うっ、ばれてたか……。


「す、すまん。」


 ていうか、いま遠回しに付き合えって言われた気がする。なんだか、昨日のヒカルの件と言い、じわじわと退路をふさがれている感が何とも息苦しい。


「うちはカラスだが、みんなは長風呂みたいだからな。しばらくは二人っきりでいちゃつけるぞ。」


 アオイがどこまで本気かわからないからかい方をしてくる。


「幽霊って風呂要らずって知ってたか?」


 うん、二人っきりじゃなくて本当に良かった。






 しばらくして男子風呂の方に通され、風呂場にいた従者の女の人たちから逃げ回った挙句、転んで頭を大理石の風呂の角に当てるという芸当をした後、結局無事だったみんなと合流し、満漢全席もかくやという料理でもてなされた。


 うん、情報量多すぎるな。


「皆さん、これが正しいもてなしですよ。わかりましたね?」


 セレスさんの言葉に、みんながはーいと返事をする。


「ところで、皆さんの国、日本にはこんなことわざがあるそうですね。『情けは人のためならず、巡り巡って己が為』。」


 みんなの体がピタッと止まる。


「そういえば、南北東西、各方面に、恐ろしい魔獣が出たそうです。異世界から優れた科学を持ち込んだ方が助けてくださったりなんてしないのかしら。」


 ちらちらこっちを見るな。


「わかりました、引き受けましょう。」


 何をどう血迷ったのか、ユウキが真っ先に引き受ける。


「こちらも了解。」


 間髪入れずにユミコも。


「おい、お前らどうしちゃったんだよ。」


 俺がきくと、


「実は、家の関係でこういうのはノーと言えないのよ。私の家もお師匠様の家も、超常関連をメインで扱う家だからさ……。」


「つまり義務。旦那様の無理は不要。」


 なるほど、つまり、自分に思いを寄せる女の子たちが魔法を使える人がいても苦戦する怪物相手にたたかってくるのを、城で歓待を受けて待てと……?


 さすがにそこまで屑人間になりきれる自信がなかったので、他のメンツの顔を見る。


「旨そうなやつのところなら行きたいな。さすがのおもてなしなんだが、いまは日本の焼き鳥が恋しくなってるんだぜ。」


 悪い意味で勇ましいカオリ。


「ワタクシが傷つけても大丈夫そうなのと戦ってみたいですのぉ!」


 レイナまでノリノリだ。


「私は、少しでも戦闘できるようになりたいな!」


 ヒカル先輩まで出る気かよ……。


「まさかだが、これで残るなんて言わないよな!カヅキ君!」


 ユウリが皮肉っぽく言ってくる。


「あーもう、わかったよ!何を倒せばいいの?」


「今回の目撃で被害が出ているのは、四聖獣とよばれる、玄武、朱雀、白虎、青龍の四体です。」


「さあみんな帰ろう!」


 なんかヤバそうな匂いしかしない。


 俺が言うと、すべての女性陣から大ヒンシュクの拳骨を大量にもらった。


「でも、チーム分けはしないと。」


 一番(精神年齢が)大人なユミコの提案により、チームが分けられるようになった。


 玄武……レイナ、アオイ。


 朱雀……カオリ、ヒカル。


 白虎……ユウリ、俺。


 青龍……ユミコ、ユウキ


「なあこれ、どう見ても戦力が傾きすぎないか?」


「公正なじゃんけんの結果。」


 俺らがやっているのは仮にもコメディーであって、バトルものではないはずなのだが……。


「大丈夫、シュガー、ケセラセラ、だよ!」


 状況的に、なんともならなそうな気がするが、仕方ない。


「さあみんな、それぞれ、戦いに出発だ!」


 もうどうでもよくなってきて俺が叫ぶと、


「「「おーっ!」」」


 みんな、返事だけは元気なものをくれた。

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