男子校に入学したはずなのに、腹いせに異世界に飛ばされた件

「セレスさん……でいいんだよな?」


「ええ。乱暴で雑な説明とともに召喚されて、空気のような存在感しか許されなかった準レギュラー扱いのセレスですよ。」


 うっわぁ。すごく卑屈になってる……。


「ということで、逆恨みでいろいろやらせてもらうことにしたわ。ごめんなさいね。」


 ごめんなさいっていうぐらいなら最初から手を出さないでほしい。


「お前のそんな腹いせのために……みんなは……っ!」


 ヤバい。ユウリが怒っている。こいつはおそらく幽霊のご都合パワーでかなりの戦闘ができるはずだ。一度暴れ出したら、手のつけようがなくなっちまうぞ。


「落ち着くんだユウリ。ここで暴れてもいいことなんてないだろ!」


「なら、みんなは何のために犠牲になったんだ!」


 それを聞いたセレスが笑いだす。


「ふふふふ、あはははははっ!」


「何がおかしい!」


「あんなのが犠牲ですって?むしろ私に感謝してほしいです。」


「何だと貴様!ふざけるな!」


 なんだろう、すごくデジャブだ。まるで、校舎の屋上でセレスさんと俺がけんかしたときのような……。


「あの程度で犠牲って、何を言っちゃっているのでしょうか?」


「あの程度だと!?みんな優しくて、すごくいい奴らだったんだぞ!なのに、死亡フラグまで立てて……。」


「まあ、だから私のペットたちもあんなにうれしそうにしていたのね!」


 あのオオカミたちと、カオリたちが戦った謎の奴、セレスさんのペットだったのか。


「お前だけは絶対に!」


「待った、ユウリ。」


 俺はふと気が付いた。


「なんだよカヅキ!こいつがみんなに何をしてきたのか忘れたのか!?」


 そもそも俺らは逃げさせてもらっただけで忘れるも何も最初から目撃すらしていない。


「落ち着け、そもそも、ここが異世界であることはほぼ確実だが、みんなが何をされたかまで見に来たわけじゃないだろう。」


「そ、そんなの、こいつがここにいる時点でわかりきっているじゃないか!」


「さすが、あなたはカヅキさんとちがって平和ボケしていませんね。」


 セレスさんの言い方も悪いと思うが、たぶんユウリは勘違いしている。俺は確信を持って聞いた。


「セレスさん、あなたは、もしくはあなたのペットはみんなを殺したのか?」


「なぜそんなことをするの?いくら腹いせでも殺しなんてするはずないじゃない。」


「……!?」


 おそらくユウリは理解できていない。


「たぶんあなたは、ペットなどを使って俺たちを驚かしたんじゃないのか?」


「そうね、しいて言うなら王族としておもてなしぐらいはさせてもらうけど。」


「おもてなしだって!?みんながヤバいんじゃ!」


 思考回路がヤクザやヤンキーのそれに近いユウリが慌てるが、たぶんセレスさんのいうおもてなしは文字通りのそれじゃないかな。


「もう、帰らぬ人となっているかもね。」


 あんたも紛らわしい言い方するなよ……。


「いいかユウリ。この人の言葉を最初から考えよう。」


 多分だが、俺の推理は珍しく合っている。最近はしょっちゅう命の危機にさらされるから、推理が冴えわたっているのだ。


「まず、最初のいろいろやらせてもらう、というもの。あれは、王族のもてなしを言うんだな?」


「それ以外に何を指すっていうのですか?」


「いいかユウリ、これが本当に豪華なおもてなしなら、最初の言葉だけでなく、『私に感謝してほしいわ』や『あの程度で犠牲』の意味も分かるだろう?」


「だ、だが、『ペットが喜んでいる』や『帰らぬ人となっている』のほうは!?」


「そっちはもっと簡単だ。セレスさん、説明よろしく。」


「面倒くさいからと人に説明を押し付けないでほしいです。私に丸投げしないでください。」


 そもそもあんたが起こした事件だろうが。


「要するに、来たのが可愛くて優しい子ばかりだから、セレスさんのペットたちが舞い上がっていたということ。そうだろ?」


 もはや敬語を使う気すら失せてきたので雑に確認する。セレスさんがうなずくのを見てから、さらに、


「帰らぬ人っていうのは、ここが多分異世界で、もてなしに自信があるから帰りたがらない人が続出するだろうってことじゃないか?」


 と続けさせてもらう。セレスさん、もう少しわかりやすくモノを言いませんかね?


「さすが、よくわかりましたね。あなたに、私の直属の部下として仕える権利を上げます。」


 いらねーよ。


「ということで、王城のおもてなしというものをお見せさせていただきますね。」


 そう、この人の言う「腹いせ」というのは、異世界から来たセレスさん対して、まともなおもてなし一つできなかった俺たちへの皮肉として、きちんとしたもてなしというものを見せてやる、というものだった。


「なあ、もうウチ疲れたし、帰っていいかな?」


 ずっと気を張り詰めていたユウリがぼやく。


「そんなことをしてもいいのですか?」


 セレスさんが問うてきた。今度はなんだよ。さすがに尺の都合でもう帰る、というのは早すぎるが、あまり異世界に長く居つくと、読者様のご機嫌を損なう可能性がある。


「もちろん、読者様の件もありますが、それだけではありませんよ。」


 まるで俺の心を読んだかのようにセレスさんが言い当ててくる。


「どういうことだ!?」


「まず、あなた方の世界でどうかは知りませんが、この世界では少なくとも王族のもてなしを断るのは、死刑されてもおかしくないことです。」


 いや、重すぎるだろ王族の権威……。でも、この人はたぶん性格的にそんなことはしない。たぶん、他に原因がある。


「そう。あなた方は最初に、何から逃げていたのですか?私はその者たちのエネルギーをもとにしてここへの扉を開いたのですよ?」


 もしや……。


「百合ゾンビ……あれだけは、お前がやったものじゃないんだな!」


 あれは前例もあるみたいだしなぁ。アヤカさんと、かつてのユウリのパートナーであった一ノ瀬先生両方が負けるほどの強さだ。クラスメイトであることを差し引いてもうかつに手を出せない。


「彼女たちは、咲き誇る百合の花が見たくて暴れているそうですね。」


 百合の意味たぶん違いますけど、大体あってるね。


「まあそんなところですね。」


「ならば、彼女たちにそれを見せてあげれば元に戻るのではないでしょうか?わが国では大量に用意できますよ。」


「えっと、たぶん違う意味だと思いますよ?隠語というか、俗語というかなんで。百合っていうのは。」


「そうですよ?わが国の、団内のみでの恋愛が許可された、女性のみの騎士団をむかわせるつもりですが。」


 もうなんかツッコむ気が失せてきた。


「じゃあもうそれでお願いします。」


 なんでもいいや、うん。


「では、まずは王城に行きましょうか。」


「そうですね。」


 なんかユウリも安心したからかセレスさんに心を開き始めている。


 ……帰りてぇ。

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