男子校に入学したはずなのに、○○と遊園地を楽しむ件⑤
目が覚めると、そこは、知らない天井だった。冷静に考えてみると、そこは、天井ですらなかった。覆いかぶさっているのは、布、しっとりとした柔らかさだった。
「なぁユミコ、俺の呼吸について気を使いはしなかったのか?」
「忘れてた。」
あははおっちょこちょいさんだな。ぶっ飛ばしてやろうか。
「ヒカル先輩は?」
「そこ。」
隣のベッドでは、気持ちよさそうにすやすやと寝ているヒカル先輩がいた。
「ヒカル先輩は無事なのか?」
「寝てるだけ。そろそろもーにん。」
もーにん?なんのこっちゃ。
「うーちゅーうーシュガー!」
結構前の某ライダーみたいなことを叫び、ヒカル先輩が跳ね起きる。もーにんってグッドモーニングの略なのね。
「ヒカル先輩は本当に無事なんだよな?」
頭打ってないだろうかこれ。
「無事。無傷。」
あの状態から無傷って……。突っ込みかけたが、下敷きになった俺も無傷だったのだ。人のことは言えまい。
「シュガー!目が覚めたの!?よかったー!私とべろちゅーしちゃったせいで気絶しちゃったのかと思った!」
「よくここでそんな方向の心配ができますね。」
口ではそう言ってみるものの、先ほどの感触を思い出して俺自身赤くなってしまう。べろちゅーとかおっさんか、というツッコミはできなかった。
「なあなあカヅキさんよ、かなりたくさんの女の子とデートしたそうじゃねえか。」
ベッドの下からスーッとユウリが出てきた。さすが幽霊。
「あれをデートと呼ぶな。いちいち命がけでたまるか。」
「デートってのは楽しむものだろ?お前は楽しくなかったのか?」
まあ、中学の頃よりは退屈しない(控えめに言って。本当に控えめに言って。)毎日であるといえよう。命がけでなければ。
「はいはい、楽しかったよ。」
「じゃあいいじゃねえか。うちもそういうデートとかしてみたいなぁ。」
そういいながらチラッ、チラッとこっちを見てくる。俺は知っている。こういう時、女子のことを誘わないと、あとでバラバラにされると。カオリのおかげで学んだ。
「お前もいくか?」
「私も。」
ええ、デートって女子を二人も連れるもんなの?
「時間帯別カヅキ独占権はどうしたんだよ!」
「気絶中。文句は彼に。」
なんか俺の知らないところで変な取引がなされている気が……俺は思考停止した。
「じゃあ。行こうぜ。」
そういえばユミコは除霊師とかやってたな。
「バイト。一匹5000万。」
高いな……。
「こうやって三人で遊園地回るのもいいよなぁ。三人での周回プレイ、略して3ぴ……。」
変な略称をつけようとしたので、ユウリはユミコに殴ってもらう。俺の腕じゃすり抜けられるからな。
「ひぃ、除霊師の腕ってなんか、なんかピリピリしゅりゅのぉ!」
だめだ、コンプライアンス的にかなりきわどい。
「やっぱやめとこうぜ。」
「ん。」
こうして、三人のTDL食べ歩き会はスタートした。
「そろそろ暗いし、なんか腹にたまるもの食べたいよなぁ。」
「遊園地名物、PC食べる。」
「おいお前ら、意見を統一しろ。あと、PCってなんだ?パソコンじゃないよな?」
こいつらはフリーダムすぎるんだよ。一度と言わず、何回か痛い目を見てほしいタイプだ。
「ポップコーン。」
ユミコが完全に馬鹿にした目でこちらを見てくるが、それは一般的な言い方じゃないからな?
「ここ。」
俺とユウリを(思考的に)完全に置き去りにしてユミコが付いたのは、まぎれもないポップコーン屋台だった。並んでいるケースがパソコンでなければ間違いなく普通のポップコーンの店だっただろう。
「そういえば何かで聞いたぞ。TDLではポップコーンのケースが、すごくユニークだと。」
それでも、これは明らかに異常だろう。
「それともハッデー型のがいい?」
「「よくないよくない。」」
誰が好き好んでハダカデバネズミの頭に入れたポップコーンを食べるんだよ。遠くから見えるだけで入れ物の内側ぐちゃってしてるし。こうして、三人一致でポップコーンの容器はパソコン型にすることにした。超食べにくそうだけど。
「次はうちの方な。」
「ユウリは腹にたまるものがいいんだったか?」
「そうそう。ちなみにうちは幽霊だから、食べなくても死なないんだけどね。」
もう幽霊なんてやめちまえ。
ユウリの後についていくと、大きくてメルヘンチックな建物についた。看板にはでっかく「カップル用ホテル」と書いてある。少しはオブラートに包もうよ。
てか、こんなところに連れ込んで何するつもりなんだろう。
「ウチの食事って生命力だけでもいいんだよね。もちろん飯からでも取れるけど、生きているとなおよし。というわけでカヅキ……」
「ユミコ、ヘルプ。」
「ふにゃああぁ!」
どうしてもこいつは色っぽい叫び声をあげずにはいられないのだろうか。俺はしゃがんだまま考える。
「結局どこに行きたいんだよ、ユウリは?」
「お前なんでしゃがんでいるんだ?」
「うるさい、どこ行くんだよ。」
「じゃあ、みんなと行ったレストラン。あそこにもう一度行きたい。」
珍しく少し寂し気な顔をしているが、何かあったのだろうか。こういうのを放っておけないのは本当に損な性分だ。
「ほら、行くぞ。」
ユウリの手をユミコと二人で引っ張る。唯一まともそうな、今日は乗れなかったアトラクションである観覧車をバックに、三人で走る。
別に意味はなかったが、とにかく楽しかった。ユミコですらも笑顔だ。冷静に考えたら、この三人でこうして遊べるのも、今年が最後なのか。ユミコはそろそろ受験だろうし、ユウリは永遠の17歳だ。文字通り。ふと、息が乱れて足が止まる。
少ししんみりしかけたのを気遣うように、ユミコが顔を覗き込んできた。こいつはこいつでいい女だ。
それも伝わってしまったらしく、ユミコが顔を赤くするが、こっちも恥ずかしい。
「おーい、二人とも、早く!」
先に走って行ってしまっていたユウリが叫んでくる。
幽霊って、冷静に考えたら疲れることもないんだろ?最強じゃね?
「今行くって!」
息を切らして何とかついていく。
三人で、笑いあいながら食べたカレーは、今までで二番目においしいカレーとなった。
「やばい、あと二時間しかない!」
「ユミコ、食ったら眠くなるのはわかるが、少しは自分で走れ!」
俺たちは、食事の後に時間を忘れてしゃべっていたのだ。遊園地の人たちのことも考えると、早く出た方がいいのは間違いないだろう。
そして何より、集合時間は一時間前だった。場所は出入口。地味に遠い。
先ほどは俺とユミコがユウリを、今回は俺とユウリがユミコを運んでいる。俺のことも誰か運んでくれよ……。
何とか集合場所につくと、みんなが集まっていた。スタッフの人たちもみんな心配そうにしている。
「やっと来たわ!」
最初に俺らに気が付いたのはユウキだった。
「悪い、遅くなって!」
「いいのよ。それより、あなたたち三人と、アオイが行方不明だったの!」
「アオイが!?」
「うわーん、アオイちゃん、ごめんね、お姉ちゃんがちょっと目を離した隙にぃ!」
シオリさんが号泣しているところから、恐らくガチなのだろう。それにしても、あの扱いをしていたなら、ただ単に避けられたって可能性もあるけどな。
「いま、みんなで、行方不明四人のうち、三人が集まったら、捜索隊を出そうって話していたところよ。」
なるほど、行き違い防止か。
「それで、3人はどこかでアオイに会ったりした?」
「ううん。」
「あってねえなぁ。」
「俺もあってはない……。けど、少し心当たりがある。ちょっと行ってくるわ。」
「え?」
「カヅキ、ちょっと待って!」
「特に根拠はないが、たぶん、あそこにいる!」
俺は、今日いろんなところを回ったからな。言ってないのは、ほぼあそこだけだろう。
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