男子校に入学したはずなのに、女子と一緒にパーティーな件

 みんなが待つ俺の家に帰ると、誰もいなかった……ので、トイレをノックしてみると、みんながワラワラと降りてきた。


トイレの中から何人も出てくるなよ、キモいから。


「パーティーのための貸切完了。」


 ユミコが教えてくれたが、怖くてなんの貸切かは聞けなかった。どうせまた超高級料亭とか、普通の人には敷居が高いところだろう。普通のところでパーティーしたいんだけどなぁ。


「お師匠様。カヅキは普通のところでパーティーしたいはずよ。」


 最近ヤバいやつ枠に転落し気味のユウキが諌めてくれる。


「分かってる。旦那様の好みの把握は妻の仕事。」


 誰が旦那様じゃ。


「あと、愛人の仕事でもありますわぁ!」


 誰が愛人じゃ。


「親友の把握するべき事でもあるぜ。」


 ちょい待てアオイ。


「今突っ込みが足りてないんだからそっちに回るでないわ。」


 まったくもって困ったやつだ。


「幼なじみの役割ってもんを、アンタら分かってねーな。」


 カオリは面倒くさいので(強さ的な意味で)シオリさんに


「タスケテ、シオリおねーちゃん!」


 と、某首を分け与える系ヒーローを呼ぶ子供のように棒読みで呼んであげたら、バトルが始まったのでセットでトイレに誘導し二人セットで放り込んでおく。


 助けてもらったのは感謝だが、頼むからショタ扱いしないで欲しい。高校生になってもそれはさすがに辛いものがある。


「それで結局どこでやるんだ?」


1番冷静な頼れる幽霊ことユウリがユミコに聞いてくれる。


「遊園地。」


 なんだ、まともな所じゃないか。


 ……。


 お前最初になんて言った?





 東京デンジャラスランド、通称TDLは東京ドームの約10倍の面積を誇る巨大遊園地。と言ってもサイズの実感が湧かないので畳に置き換えると25万5千畳。やっぱり実感がわかない。


 ひとつ言えるのは、そんな所を貸切にできる酔狂な人間はこの世に極わずかだということ。いくらかけたとかは聞いてはいけない。


「たったの5億。」


 ヒェッ。


 すっかり忘れていたけど、こいつは心が読めるチートキャラだったんだ。貸し切りに対するあまりの驚きに忘れていた。というか、みんなもドン引きである。


「さあ、楽しんで。」


 広すぎて静まり返った遊園地ってそこはかとない怖さというか、それそのものへの恐怖を感じるよな……。


 だが、いくらユミコと言えど5億も出すのは大変だっただろう。楽しまなくてはもったいないというものだ。


「さすがに痛い出費。」


 そうだろう。下手したら、生まれてから全てのお小遣いを全てはたいて手に入れた貸切かもしれない。


「3ヶ月分のお小遣い。」


 期間だけは小学生のそれだな。


 そして、みんなの方を見ると、かなり早く適応したレイナやユウキを筆頭に、もう楽しみ始めている。


 せっかくだし今日は俺も楽しませてもらおう。恐怖の執事セバスチャンさんが運転手=この遊園地のどこかを徘徊していることは忘れよう。怖いけど。


 さっき、ユウキの家のポンコツメイド、ユリアさんも来ているところが見えた。あの人、今日は無事に遊園地までたどり着けたんだな。


 なんでも、先にお土産を選んでおけば、支払いは全て5億の中で収まるようにできているらしく、セバスチャンさんやユリアさんが車まで運んでおいてくれるらしい。


 セバスチャンに預けるのは非常に不安だが、ユリアさんにも預けるのは気が進まない……。まぁ、消去法でユリアさんかな。


 お土産を選ぶと、次はパレードに参加するらしい。


 ……。そう、見るのではなく、参加だ。これだけでいくらかかるんだろう。しかも、マスコットキャラクターたちも割と戸惑っているから、かなりの無理を押し通したんじゃないだろうか。


 女子勢はほとんどがプリンセス衣装、俺は謎の王子様で、シオリさんだけゾンビメイク。しかもやけにリアル。


 観客(ユミコが呼んだエキストラ)は楽しんでたみたいだからいいけどさ。エキストラ呼ぶくらいなら普通にパレードの参加だけでよかったんじゃない?


 衣装のままでも動きにくいので、お土産にみんなで買ったおそろいのTシャツに着替える。次はおひるごはんらしい。


「お昼ご飯はカレーですわぁ!」


 どうやらTDLの常連でもあるらしいレイナがそう言ってきかなかったので、普通のサイズにマスコットキャラをかたどっているだけで1980円といういろいろな意味で恐ろしいカレーを注文する。


 しかもお土産コーナーは無料だったくせにこっちは自腹らしい。力の入れどころ間違ってるだろ。


「すみません、このカレー、甘いんですけど、タウマチンでも入ってますか?」


 とユウキが店の人を捕まえてきいている。


 なんだその実験用の薬品みたいな名前のものは。常識で考えて入っていないだろう。


「なんだよそれ。」


「世界一甘い物質だって。確か、姉さんの研究室に以前あったぞ?」


「今も持ってるよ。」


 アオイとシオリさんはそんな会話をしながら、シオリさんの方はやばそうな粉をカレーにドバドバかけている。それ、本当に食い物なんだろうな?


「まったく、お前らは落ち着きがないな。」


 レイナの体が半分だけ落ち着いて、もう半分が暴れているのは一番落ち着きがないように見えるが、それはいいのだろうか。


「それよりカヅキ、あとでジェットコースターに付き合え。」


 そういえばカオリはジェットコースターが苦手だったっけ。こいつの弱点だから、忘れないようにメモまでしたはずなのに。


「はいはい、わかりましたよ。」


 こんな平和な日常(使っている金額、食べ物を除く)はとても久しぶりだ。わざわざ貸切ってくれたユミコには申し訳ないが、食ったら眠くなってきた。きっと、相当疲れたのだろう。


「作戦開始。」


 嫌な予感を覚えさせるユミコの声と、セバスチャンさんが恭しくユミコから受け取った白い粉の入った小瓶を最後に、またも意識が途切れた。





 ジリリリリリ!


 目覚ましのような音で目が覚めた。なんだ。よくある夢落ちか。俺は女子校に間違って通ったりしないし、ヤバい奴らに絡まれたり、何度も眠り薬を盛られたりもしない。いたって平和な朝だ。


 そう。だから、この、どう見てもジェットコースター用のイスも、目の前に広がるレールも、きっと寝ぼけているからに違いない。


 すぐ横にガチガチのカオリがいるように見えるのも、珍しくみんな仲良くそろってサムズアップして見えるのも、全部寝ぼけている俺の夢である。


「発射します、さあ、楽しんできてくださいね、逝ってらっしゃい!」


 だめだ、アナウンスするお姉さんの声が、勝手におかしな漢字に変換される。


「すみませんおりまs」


 ガタンッ。


 わーい、うごいたぁ。


 だんだんと高くなってくる視点に合わせるように、みんなが移動する。


「あんたも乗れないこと、忘れたと思った!?」


 隣りからは、ガチガチ鳴っている歯の音とともにカオリの声が聞こえてくる。


「ぜひ忘れていてほしかったかな!」


 二秒後に、体の向きが180度回転した。


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