【幕間】お兄ちゃんが、男子校に入学したはずなのに、なぜかいつも女装な件

 お兄ちゃんは、最近何かあったのだろうか。お兄ちゃんが高校に上がってしばらくして気が付いた。


 お兄ちゃんには女装趣味があるらしい。


 朝、いつも部屋でドタバタしているのも、やたら高校生になってから生活態度がよくなったのも恐らく女装している姿を隠すためであろう。


 この前も、お兄ちゃんの部屋のドアを勝手に空けようとしたら、内側からつっかえ棒のようなものがかかっていて、まったく動かなかった。これも女装を隠すためなんじゃないだろうか。


 まあ、お兄ちゃんが本当にそういう趣味ならいいが、ヤバい仕事とかに手を出したりしていないかが心配だ。自分の兄がメイド喫茶で萌え萌えキュンしていたら、キュン死じゃなくても十分に死ねる。


 もちろん客側であってなども欲しくはないが、店員側だったらさらにちょっと勘弁してほしい。


 仕方なく、お兄ちゃんが学校に行くところについていくことにした。もちろんこっそり。


 お兄ちゃんはその日、学校を出ると普通に電車に乗り、電車を降りて学校へ向かう。あたりにはこの前素敵なお姉さんと会った店もあった。


 河合ちゃんと森川ちゃん、通称河ちゃん森ちゃんも楽しんでくれただろう。二人があんなに頭が悪かったのは予想外だったけど……。


「おはよう、カヅキ。」


「おはよう。今日はちゃんと弁当持ってきたか?」


「そっちは彼女の手作りだもんなぁ。」


「彼女というかストーカーだけどな……。」


 ……。ここで一句。


 もう一人。女装男子が、現れた。


「あら、アオイ、カヅキ、二人ともおはよう。」


「ユウキはお弁当なんにした?」


「あんまんよ。」


「お、そりゃあ交換が楽しみだな!」


 ……。もう一人。以下略。


 どういうこと!?てっきり、お兄ちゃんが急に目覚めたか、ヤバい商売してるか、いじめられてると思っていたのに。


 ていうか、遠目だとよくわからないが、この三人ってこの前のお姉さま方なんじゃ!?


 自分の兄にお姉さん呼びした挙句、憧れだのなんだのとその女装の美しさをほめたたえる?私は一体何をしていたんだ!?


 もし本当にお兄ちゃんがあのお姉さんたちだったりしたら、どうしよう!


 やばい、力いっぱい舌を噛みたくなってきた。


 そこまで熱くなってから、一度冷静に戻る。


 これはきっと、そっくりさんだ、と。あまりにもへたくそな女装を見てしまった自分が、精神的なショックを抑えるために、脳内でこの前会った、いと麗しいお姉さんの姿を使って美化しているのだ。そうに違いない。


 脳内での自動美化機能。さすが、優秀だわ私の脳みそ。偏差値が20もあるだけある。


 計算方法とかがよくわからなかったので、河ちゃん森ちゃんに聞いたら、


「す、すごいよ!誰にもできないと思う!」


「こんな数字、初めて見たよ!」


 などと言っていたので、たぶん素晴らしい数字なのだろう。あの二人は学年の天才だが、そのふたりすら取れないとはさすが私!


 そのあと、お兄ちゃんが嫉妬して


「どうやったらこんな低い数字が取れるんだ?」


 と聞いてきたので、たぶんお兄ちゃんはこれが悪い数字だとでもカン違いしているのだろう。偏差値すらわからない哀れなお兄ちゃんのために、


「受験会場、間違えただけだよ!」


 など言ってやった。お兄ちゃんが偏差値が何を表しているかを知ったときにびっくりする顔が気になるが、それはまた今度だ。


 そういえば今日は、お兄ちゃん朝から珍しく自分でお弁当作ってたっけ。卵焼き、ポテサラ、イカさんウインナーにミンチ焼き。


 イカさんウインナーとミンチ焼きはうちのいわゆるおふくろの味だ。イカさんウインナーは、父さんが暇なときに一発芸に近い形で作ってくれたものを、母親が気に入ってひたすら作らせたので定着した。


 ミンチ焼きは、母さんの方が、「ハンバーグって作るのめんどくさくね?」という理由の元、雑に固めたハンバーグとそぼろの中間のような代物だ。さすが妖怪ミンチ女。


 そして、しばらくして気が付いたが、この学校は異常だ。全員女装している。もしや、この学校には女装したくなるような洗脳でもかける授業があるんじゃないだろうか。


 決めた。この学校に女装男子のふりで通おう。あのお姉さんの言っていたナントカ高校じゃ、私のような高いレベルには見合わないだろう。よって、ここに通うのだ。


 お兄ちゃんを女装に導いた真犯人を見つけ出し、高校の最初に捕まえることで飛び級してスパイになって、活躍するのだ。


 なぜそんなことをするかって?それはもちろん、兄の復讐……なんてどうでもよくって、スパイがかっこいいからだ。


 そういえば、この前チア部にどうのこうのって言っていたのはどうなったんだろうな。そっちも気になる。ぜひ見て帰ろう。





 こうして、一度家に帰り、ギリースーツを着て植え込みに紛れ、女装集団の監視を続けること約4時間。


 ……飽きた。おなかすいた。帰りたい。


 お兄ちゃんの学校の方でも、お弁当の時間が始まったのか、ワイワイと休み時間特有の賑わいが聞こえてくる。っていうかこの学校本当に全員女装しているのね……。


 もういいや、帰ろ。帰ってお兄ちゃんの作っておいといてくれた弁当でも食べよう。


 お兄ちゃんのイカさんウインナーとミンチ焼きはおいしいからなぁ。


 それにしても、もう一つ、なんか大事なことを忘れている気がする。いつも忘れてしまっては、やたらめったら怒られる何か、だ。


 思い出すの面倒くさいなぁ。


 えーっとね……。


 ……。あぁ思い出した。自分の学校か!


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