男子校に入学したはずなのに、ヤンデレ女子に追いかけられている件
半泣きの担任の先生が去った後、心配そうにユウキがこちらを向き、アオイがやってきた。
「さっきは、なにかあったの?
カヅキがあんなに大きな声で叫ぶのなんて珍しいと思うんだけど……?」
「い、いや。なんでもなく……あって……欲しかった……」
「ウチらは友達だろ?なんでもいいから、まずは相談してみろって。」
いや、言えない。こんなに優しい友達を危険に晒す訳にはいかない。
直感がゴリゴリと「こいつはヤバい奴だ」と告げている。いわゆるヤンデレの素質があるのだろう。
「ほんと、なんでもないから、大丈夫だよ!!」
強引に納得させ、2人にはこの件にかかわらないで貰うことにした。すっげぇ怖いけど。
授業は半分以上頭に入ってこなかったが、その分対策を立てれた。
まず、2人に危害が及ぶことを避けるためにも、体育館には行こう。俺の家まで知っているなら、2人と仲がいいこともバレていると想定するべきだ。
問題は、こいつにどう対処するか、だが、冷静に考えれば呼び方がどうのって言うだけだろう。それなら、好きに呼ばせてやろう。
身の安全と、友達の安全、自分の荷物の安全を確保出来るなら、呼び名なんて安いもんだ。
あとは、隙を見て逃げれば……どうにか……?うん。どうにかなるはず!
体育館の裏にて。
ここは、恐らく密会の場所として有名なのかもしれない。男子校なんて、ヤンキーのたまり場の一つや二つは普通にあるからな。男子校ここしか知らないから多分だけど。
「ようやくいらしてくれましたわぁ」
近くの木の上から声がする。どこかで聞いたことのあるような声だ。見あげようとすると、上手く逆光で姿が隠れるようにしていた。
シルエットに覚えはないが、この学校にいるのだから、女装男子だろう。
……あれっ?
夕日が落ちるのは早い。それゆえに、逆光が若干ズレてきた。
「見ないでくださいましぃ、恥ずかしいですわぁ。」
その癖がすごいしゃべり方は恥ずかしくないのだろうか。
「誰だお前は?あと、俺の靴を返してくれないか?」
「嫌ですわぁ、以前お会いしましたわよぉ。
それに、あの靴はワタクシの家の家宝に致しますのぉ。」
「もしかしてその声……レイナさんか!?」
あまりに喋り方が違うから、判別に時間がかかったが、恐らくそうだ。この前会った、男嫌いのカオリの友達、レイナさんだ。
「カオリお姉様に相談して、実際に会って、確信しましたのぉ。
あなたもまぁお年頃の男性ですし?ここに潜んでいてもおかしくないと思いましたわぁ。」
「何言ってるんだ?お前こそ、なんで男子校に潜入しているんだ!?」
「……なるほどぉ、そういうことですかぁ。
面白いことが起きておりますわねぇ!これはいよいよ、お姉様呼びをしたくなりましたわぁ!」
本当に何を言っているんだこいつは。意味がわからん。
「とにかく!靴を返してくれないか!」
「だからぁ、あれはワタクシの家宝ですのぉ!
それに、もうベチャベチャですわよぉ?」
何でべちゃべちゃなのかは、怖いから聞かないでおこう。
「じゃ、じゃあ、手紙の件!
お姉様呼びでもなんでもいいから、俺はもう帰らせてもらうぞ!じゃあな!」
この前やったホラゲーで同じようなことを言ったやつが真っ先に死んでいたが、今はそれどころじゃない。逃げよう。
「本当ですのぉ!?」
しかし、反対側の木にロープを垂らしておいたのか、俺の前に飛び降りてくる。
「嬉しいですわぁ、カヅキお姉様ァ!うふ、うふふふ!」
やべえって。こいつ、焦点があってないぞ。
「カオリお姉様は美人ですけれどぉ、カヅキお姉様はかわいいので別腹ですわぁ!」
そう言って抱きついてくる。
こいつ、男が苦手なんじゃないのかよ。ていうか、俺も俺で怖すぎて相手を女子として見て、緊張するとか全然できない。
「一生一緒ですわよぉ!」
しかも若干、いや、結構愛が重い!
「じゃ、じゃあ俺はこれで……」
「ダメですわぁ!姉妹の契りとして、今日はワタクシがご飯をご馳走しますのぉ!
手料理ってやつですわぁ!」
「い、いや、用事があるから……」
「お姉様の手帳には、書いてありませんでしたわぁ!」
いつの間にかそこまで見られてる!?
「友達とご飯に……」
「お姉様をたぶらかすなんて、そのお友達、消しますわぁ!」
「ダメだから!」
こいつは本当にやばい。とりあえず言いなりになろう。服の中になにか光ってたし。
連行されるようにして電車に乗り、家の最寄り駅から、家と反対の方向に歩く。
10分ほど歩くと、そこそこの豪邸があり、そこで立ち止まる。
「ここですわぁ」
後ろから体ごと押される。痛っ!今なんか刺さらなかった?
「お姉様の一番好きなヒカリモノはなんですかぁ?」
中に入る直前で立ち止まり、聞いてくる。比較的安全そうな話題なので、落ち着いて答えよう。
「なんで急に寿司?ご馳走してくれるのか?
あ、俺の一番好きなのはサバかな。」
「お寿司ですわねぇ?わかりましたわぁ」
噛み合っていない気がする話の返しをしながら、レイナは家の中のどこかに行く。今のうちに逃げようかなー、とも思ったが、ここで逃げては、ユウキやアオイに被害が及ぶ。
「こちらですわぁ!」
少しして、扉を開けて、レイナが手招きする。渋々中に入ると、
「うぇっ!」
並んでいた。いや、寿司じゃない。もちろん、サバでもない。
その程度なら、驚くだけで済んだだろう。
並んでいたのは、柳刃包丁だ。それも、とんでもない数。廊下の壁、天井、天井からぶら下がっている紐にも。
「お姉様の大好きなヒカリモノでお家をアレンジしましたの!」
ヒカリモノって、刃物の事かよ……確かに光るけどさぁ。
「しまえしまえ、こんな物騒なもの……」
「お姉様に切って欲しいんですのぉ。」
何をだよ……
「ワタクシめをお姉様のその御手で傷つけてくださいませぇ!」
怖い、怖いから!
「そ、そんなことより、お腹すいたなぁー」
棒読みで強引に話をそらす。
レイナは少し不満そうだが、先程の話通り、寿司を用意し始めた。
寿司には特に薬とか入ってないだろう。やたらと鉄分臭い魚ばかりだけど。しかもレイナの手はさっきに比べて傷だらけな気もするけど。
慌てて口にかっ込み、引きつる顔で笑みを浮かべる。
「うん、美味しかったよ。ありがとう。」
「お気になさらずですわぁ!
本当は泊まって頂きたいですけど、ワタクシにも準備がありますので、また明日ですのぉ!」
つまり、なんとか返してもらえることになった。ということかな?
「ど、どうも?」
俺はそそくさと支度し、逃げるように帰らせていただいた。
いや待て。最後、なんか余計なこと言わなかった?
明日は金曜日だなぁ。
現実逃避しよう。ようやく週末だ……。終末じゃないといいなぁ。
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