恩返し

 ようやく落ち着いた僕達は喫茶店を出てから、ブラブラとショッピングモールの中を歩いていた。

 時々、絵里さんが服屋の前で店頭に飾ってある服を眺めては立ち止まる。


「買わないんですか?」


 それを何度か繰り返していた後、僕は尋ねてみた。

 この人の財力なら、考えずに服なんていくらでも買えそうなのに。


「んー、デザインはかわいいんだけどね。こういうところでは買わないかな。お気に入りのブランドがあるのよ」


「なるほど……」


 それはつまり庶民向けの服屋では買わないってことか……

 まぁそうだよね。異常な財力の持ち主なんだから。


「でも晶君が似合うって言うなら、買うわよ?むしろ、服だけでなく、ブラとかパンツも選んで欲しい……♡」


「それは遠慮しときます……!」


 ブラとかってなんだよ……

 つい、想像しちゃったじゃん……

 きっと、ものすごく大きい……って考えるな!!


「にしても、こうやってブラブラ歩くのもつまんないし、どこか目的地を決めましょうか」


「そうですね……実は行きたい場所あるんですけど、いいですか……?」


「あら、そうなの?もちろんよ」


 絵里さんはニッコリ微笑んでそう言ってくれた。


「ありがとうございます」


 そうして、エスカレーターを降り、道を歩いていく。


「ここです」


「え、ここって……」


 絵里さんは少し驚いた。

 いや、驚いたというより、引いたのかもしれない。

 何故なら、僕が行きたいといって、やってきたのはおもちゃ屋だったからだ。


 僕が小さい頃から展開されている全国チェーンの有名なおもちゃ屋。


「引きますよね……高校生にもなって、おもちゃ屋なんて……」


「そんなことないわよ。晶君が行きたいって言ったんだから、ここも何かの想いがあるってことなんでしょ?」


 まるで僕の心の中を察したような絵里さんの発言。やっぱり、すごいなこの人は。


「はい……ここのお店じゃないんですけど、昔からよく試遊できるおもちゃで遊んでいて……そのお店はもう無くなっちゃったんですけど、沢山遊ばせてくれた分、いつかお金をいっぱい持って、ここのおもちゃを買おうって、小さい頃から決めてて……」


 言って、苦笑する。

 借金はないけどお金はないから、その夢はまだ叶いそうにないけど……


「晶君らしいわね……まるで感謝と恩返し……どっかのテレビ番組でそんなこと言ってたかしら……それより、中に入りましょうか」


「はい」


 そうして、僕達は中へと進んでいった。

 平日だからか、中はさほど混んでいなかった。

 昔から変わらないおもちゃ屋独特の匂い。

 ブロックのおもちゃや、人形、ぬいぐるみ、ラジコン、プログラミングができる子供向けのパソコンなんてのも置いてある。


「さて、何を買いましょうか」


「え……?」


「だって、ここのおもちゃ買いに来たんでしょ?」


「いや、でもそれは僕が個人的に……」


「何言ってんのよ、私は今は晶君の保護者みたいなもんよ?私がお金を出すに決まってるじゃない」


「でも……」


「遠慮なんてしない。あなたはもう充分すぎるほど頑張ったんだから、そろそろ大人に甘えてもいいのよ……まだ子供なんだから……」


「……は、はい……」


 その言葉を聞いて、僕は何故か泣き出しそうになった。

 それを見られたくなくて、慌てて顔を俯かせ、ギュッと手を強く握る。

 多分、絵里さんにはお見通しだっただろう。

 しかし、それを言うこともなく、しばらくの間、優しく頭を撫でてくれるのだった。

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