第406話当然

村上国清「そうでしたか。家康にも届いていましたか……。」


春日虎綱「となりますとやはり。」


村上国清「えぇ。輝虎の所にも将軍様からの手紙が届いています。」


私(村上義清)「奴は実績があるからな。」




 上杉輝虎は昔、将軍足利義昭の兄義輝の要請に応じ2度に渡り上洛。内1回は義輝と対立する三好長慶を牽制するため。




春日虎綱「輝虎はどのように考えている?」


村上国清「彼に上洛したい気持ちがある事は事実であります。その一環として関東へ進出したのでありますから。しかし現状、関東情勢は思わしくありません。加えて越中の入口であります椎名が武田との関係を深め、対立関係にありますので救援の兵を出す余裕はありません。加えて信長が輝虎に対し細心の注意を払っている様子。」


私(村上義清)「虎綱。何かわかる事があるか?」


春日虎綱「平身低頭を貫いている模様であります。」


私(村上義清)「輝虎の事を恐れている?」


春日虎綱「それもあると思われますが、たぶんでありますが『今は戦いたくは無い。』と言うのが本音では無いかと。


 輝虎には上洛した実績があります。将軍様の依頼となれば断る事は出来ないのが輝虎でありますが現状、動く事が出来ない状況にあります。しかしそこに将軍様の仲介が入った場合どうなるでしょうか?上洛の途次にあります加賀及び越中西部の一向宗との和議が成立すれば、一向宗の支援無しには戦う事が出来ない椎名も頭を下げざるを得ない状況に追い込まれます。越前と北近江には信長と対立する朝倉と浅井が居ます。もし彼らが結び付いた場合、信長が今の戦線を維持する事は難しくなります。


 そしてもう1つがうちであります。うちと輝虎は盟約の関係にあります。行軍の障害となる物はありません。陸路ではありますが、信長との戦線への距離は短く。かつ信長の本拠地であります美濃尾張を直接狙う事が出来ます。それは絶対に避けたいと考えていると思われます。幸いうちと信長。そして家康との関係が良好でありますので、現状安全地帯として機能しています。しかしうちと輝虎の関係は、うちと信長や家康の関係より長く、深いものであります。


 仮に輝虎が将軍様の要請に応じ、信長討滅の兵を挙げた時、我らはどちらかにつかなければならなくなります。仮に北陸路を選択されたのでありましたら『傍観』と言う選択肢も許されると思われますが、信濃路を使う場合。」


私(村上義清)「輝虎を通すか戦うかの選択が迫られる事になる……。」


春日虎綱「その通りであります。」

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