第380話9月9日
旧暦の9月9日は重陽。この日は中国を始め東亜細亜における伝統的な祝日とされ、日本ではこの時期に咲く花と絡めて「菊の節句」とも呼ばれています。
元々は陽を表す奇数が重なる月日は陽が強過ぎて不吉とされ、それを振り払う行事が執り行われていたのでありましたが、いつしか陽が重なる事は目出度いに転じ。単なる祝いの日になったそうであります。そんな誰もが祭りに興じようかとしているその日。徳川家康がした事。それは……。
堀川城から逃げた者を集め……。
春日虎綱「奇数の最大数が重なる最も不吉な9月9日でありますので、家康からすれば最大級の厄払いが出来た。と言ってしまえばそれまでの事なのでありますが……。」
私(村上義清)「『先祖の墓を掃除し、邪気を払いながら長寿を願う。』家族の事を最も思う日を家康は狙った……。宝渚寺の方はどうなっておる?」
春日虎綱「家康得意の『元のまま』であります。」
私(村上義清)「跡形も無いって事?」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「井伊谷の方は?」
春日虎綱「とても重陽を祝う事が出来る状況ではありません。」
私(村上義清)「だろうな……。宝渚寺があの状態になったとなると、誰が弔うんだ?流石に放置するわけにはいかないだろう。」
春日虎綱「そうですね。これから家康はあそこを何度も往復する事になりますので。」
私(村上義清)「何かある度に『あの時の……』と言われる事になるからな……。でも葬儀が出来る奴っているのか?」
春日虎綱「その役目なのでありますが。」
私(村上義清)「何か知っている事があるのか?」
春日虎綱「はい。家康から『龍潭寺に弔いをお願いしたい。』との依頼があります。」
私(村上義清)「引き受けるのか?」
春日虎綱「『任せます。』とだけ返答しました。」
私(村上義清)「気賀の民はどうしている?」
春日虎綱「身内を始め。隣近所も併せれば、此度の件に関わっていない者は皆無であります。家康が当地を抑えている以上。表立って反発する者は居ませんが、その分。彼に対する恨みはより深い所に入り込んでいる事は想像に難くありません。
家康が弔いを依頼しました龍潭寺は一応、宝渚寺と同じく妙心寺派でありますが、龍潭寺は宝渚寺と袂を分かった側であります。もし龍潭寺も反家康であったのなら。井伊谷の者が家康の先導役を買って出なかったのなら。今の惨劇は無かったのでは無いか。」
私(村上義清)「『どの面下げて来てるんだ?』」
春日虎綱「うちも龍潭寺を抱えている場所を抑えている以上。用心した方が良いと思います。」
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