第366話制海権

徳川家康による侵攻を抑えるべく、今川氏真から天竜川東岸の要衝。二俣城及び見付地域を譲り受けた武田義信。しかしこれだけでは家康の東進を止めるには不十分なようでありまして……。




真田幸隆「武田には、我らと共通する弱点があります。それは水軍。とりわけ海でのいくさが出来ない事であります。これは内陸に拠点を構えている以上、仕方の無い事であります。一方家康には、知多半島から渥美半島。更には遠江の一部にまで勢力を伸ばした海の行き来を得意とする戸田氏を配下に収めています。武田が、彼らの動きを押し留める事は出来ません。今川には海に面した駿河を本拠地にしていますので水軍があります。ありますが、こちらも天竜川以西における氏真の体たらくを見て、氏真を見限る恐れがあります。」


私(村上義清)「でも家康は大井川以東。駿河湾にまで兵を進める事は無いであろう。」


真田幸隆「確かにそうなのではありますが、如何せん陸と違い。海の線引き。境目を決めるのは、対象となる物がありませんので難しいと思われます。仮に家康が律儀に大井川で自重したとしましても、それで武田との問題が解決するわけではありません。


 駿河湾が今川に残ったとします。武田が今川を制圧した形にしないと家康の侵入の口実となってしまいますので、義信が抑えたとします。駿河湾の中は武田の秩序により安全であります。西の徳川は武田と同盟関係にありますので、危害を加える事はありません。ただそれは駿河湾の内側に限られた話であります。


 此度のいくさで義信は、家康との約束に反し大井川を渡ってしまいました。そこに城を構え、領有化を宣言してしまいました。家康としては面白いわけがありません。某かの仕返しをしなければ気が収まりません。だからと言って武田との同盟を破棄して天竜川を渡るのは乱暴でありますし、(飯富)昌景、馬場と言いました武田の精鋭が待ち構えている以上、家康もこれまでの浜名湖周辺のようには行きません。


 ではどうしようか?家康にあって武田に無いものは無いだろうか……。」


私(村上義清)「そこで水軍の有無が首をもたげる事になるのか?」


真田幸隆「はい。ただ駿河湾に乱入するのは得策ではありません。駿河湾内には今川の水軍が居ます。地の利は今川にありますので。ただ彼らの動きを止める事は出来ます。遠江は、大きな市場を持つ京と今川の本拠地駿河の間に位置しています。加えて武田が入った天竜川の出口を抑える位置でもあります。そこを封鎖したら武田、今川はどのような事態に陥るでしょうか。物資不足に悩まされる事になるのは必定であります。それは避けなければなりません。ただ武田には水軍はありません。氏真の名声は地に落ちてしまっています。このままでは遠江の海は家康に握られてしまう事になってしまいます。」

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