第361話不調に終わった場合

春日虎綱「そうなんですよ。交渉は相当難しくなる事が予想されます。」




 武田は代々関東公方を抑える任務が与えられていたため甲斐に在国していた事もあり、京の。とりわけ将軍家との結び付きは必ずしも強くは無い。一方の北条氏も現在関東管領を自任すると同時に関東公方も輩出し、京の政権とは一線を画す独自路線を歩んでいる。そんな彼らが京の将軍の指示に従うのであろうか?ほぼ言い掛かりとも言える同盟者今川氏真の追討令を。




真田幸隆「もし決裂した場合、家康は遠江への侵攻を諦めるのか?」


春日虎綱「いえ。それはありません。家康は交渉が決裂したとしましても遠江へ。更には駿河へと兵を進める覚悟にあります。」


真田幸隆「氏真のみならず武田北条共戦う事になるのだぞ。」


春日虎綱「はい。」


真田幸隆「単独で。か?」


春日虎綱「いえ違います。」


真田幸隆「信長も兵を動かすと言う事か?」


春日虎綱「今の所それはありませぬ。」


真田幸隆「……『うちが義信と戦え。』と言う事か?」


春日虎綱「その話になって来るかと思われます。」


真田幸隆「武田今川の後方に氏康が控えているのだぞ。」


春日虎綱「はい。その善後策としまして、信長は輝虎にも手を回しています。」


真田幸隆「そうなると……(地図を広げて)東海道筋で家康と氏真が。甲斐信濃でうちと義信が。更に越後から上野。武蔵で輝虎と氏康がそれぞれ戦う事になる?」


春日虎綱「加えて輝虎と良好な関係にあり、氏康といくさの最中にある安房の里見。更には太田資正を介し、常陸の佐竹にも連絡を取り北条の背後を攪乱する算段を想定しています。」


真田幸隆「お前はどう見ている?」


春日虎綱「今川と武田については相当厳しい戦いになると思います。それは同時に家康と我らにも言える事であります。四者は共に独力でのいくさを余儀なくされる事になりますので。」


真田幸隆「勝てると思うか?」


春日虎綱「勝ち負け以前に心情として、武田と戦いたくはありません。ただ我らの西には将軍様を擁する信長と境を為しています。彼は今。気に入らない人物を排除する権限を有しています。」


真田幸隆「うちが武田との戦いを忌避した瞬間。信長はこちらに刃を向ける事になる。」


春日虎綱「はい。しかも信長は我らが京への人と物の行き来に利用する草津と大津を手に入れています。加えて玉薬の調達には欠かす事の出来ない拠点の1つであります堺も手に入れています。」


真田幸隆「加えてうちの荷の積出港である輝虎にも回している。」


春日虎綱「我らはあっという間に干上がってしまう事になります。」


真田幸隆「かと言って武田といくさをするのは……。」


春日虎綱「私はしたくありません。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る