第334話譲れない一線

私(村上義清)「しかしここは取られるわけにはいかないよな。」


真田幸隆「はい。」




 彼らが指摘した場所。それは上杉輝虎が越後から上野に入る際、必ず立ち寄る場所である沼田城。上杉輝虎が何度もすんなり越後と関東を行き来する事が出来たのも、ここが上杉方であり続けたから。ここを失う事は輝虎の関東進出が出来なくなる事を意味するのは勿論の事……。




私(村上義清)「今は上野に向け邁進している武田義信の視線が別の方向に変わることも意味している。」


真田幸隆「佐久と西上野が点と線でしか結ばれていない以上、それを面にするため動くことになります。その時標的となるのは我らであります。義信が刃を交えに来るのでありましたら受けて立つだけの事でありますし、輝虎が沼田を失う事は箕輪衆も武田ないし北条方になっている事が想定されますので。」


私(村上義清)「逆侵攻に討って出るまで?」


真田幸隆「ただ輝虎が関東に入る事が出来ませんので、その後の展開。武田、北条両家を独りで抱えるのは得策ではありません。」


私(村上義清)「そうなると沼田は守らなければならない。」


真田幸隆「はい。沼田が上杉方であり続ける事が出来る限り、輝虎が関東に入る事が出来ます。北条、武田も無理攻めに討って出る事はありません。ただそうなりますと、うちも上野に出れない事になりますが。」


私(村上義清)「ただその沼田も安全とは限らない。」


真田幸隆「はい。奪い返しはしましたが、輝虎以上に厩橋周辺を知る高広が北条方に居ます。上杉方の誰が厩橋に派遣されようとも、高広以上の経験値を有している者はおりません。」


私(村上義清)「これに義信の西上野侵攻と、越後周辺の計略が連動することになる。」


真田幸隆「はい。武田北条有利な状況。いくさの準備が整った時に輝虎が関東に居る事が出来ないよう仕掛けが施される事になります。加えて高広は、沼田城を担当していた時期もありました。」


私(村上義清)「輝虎が上洛していた時だな?」


真田幸隆「はい。今以上に氏康が上野で猛威を奮っていた時であります。その時の事を氏康も覚えていたのでありましょう。故に今回、高広を厚遇で迎え入れたのでありましょう。」


私(村上義清)「でも最後は……。」


真田幸隆「それは言わない約束。」


私(村上義清)「そうなると沼田を維持することも難しいと考えないといけないのか……。沼田が箕輪衆ぐらい近場にあれば、こちらも動く事が出来るのであるが……。」


真田幸隆「殿。」


私(村上義清)「どうした?」


真田幸隆「私に考えが御座います。」

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