第322話後釜

真田幸隆「将軍様がお亡くなりになられたとなりますと次の将軍は三好が推している義維の嫡男が就任する運びになるのでありますか?」


私(村上義清)「三好は勿論彼を擁立しようと考えているらしいのだが……。」


真田幸隆「他に候補が?」


私(村上義清)「義輝の弟で興福寺の覚慶が近江に逃れることが出来たそうな。」


真田幸隆「興福寺と言えば奈良ですよね?」


私(村上義清)「将軍義輝を殺した松永の本拠地だ。」


真田幸隆「京で義輝と相対していたとは言え、何故そのような初歩的なヘマをしたのでありますか?」


私(村上義清)「京に居たのは息子の久通で当主の久秀はその時、奈良におった。」


真田幸隆「……となりますと久秀はわざと覚慶を生かした?」


私(村上義清)「そうなるだろうな。久秀は覚慶に対し身の安全を保障した上で幽閉しておる。何のためか?」


真田幸隆「将軍の資格を有する人物を手元に置いておきたかったから。」


私(村上義清)「久秀は、三好の傀儡政権が誕生することを望んでいたわけでは無いと言ったところであろうか。ただ幽閉したままでは将軍にすることは出来ない。加えて久秀は三好の人間であるが故、義輝の弟を擁立するわけにもいかない。そして何より三好の勢力は強大であり、久秀単独で倒すことは出来ない。この状況を打破するべく久秀は義輝の旧臣を通じ越前で勢力を誇る朝倉義景に打診。覚慶を奈良から脱出させることにした。監視の目を搔い潜られたことを演出して。今彼は義輝の盟友関係であった近江の六角のもとに身を寄せ、各地の有力者に支援を要請しているところである。」


真田幸隆「この動きに対し京はどのような状況になっているのでありますか?」


私(村上義清)「概ね歓迎されているそうである。還俗して足利義秋と名乗った覚慶に対し朝廷は従五位下左馬頭を叙任している。」




 朝廷が次期将軍候補に与える位。




真田幸隆「とは言え義秋が亡き義輝様の跡を継ぐことにはならないでしょう。」


私(村上義清)「六角も自分家に問題を抱えているから動くに動けない状況が続いておる。かと言って単独で京に入ったらそれこそ亡き兄の二の舞となってしまうのが目に見えている。それ故各地に支援を求めているところであろうか?」


真田幸隆「誰か手を挙げる者は現れますかね?」


私(村上義清)「三好と対抗することが出来る東国の勢力となると……。」


真田幸隆「上洛の実績のある輝虎は関東の仕事がありますから前みたいな動きをすることは出来ません。そうなりますと久秀が頼んだ越前の朝倉になりますでしょうか?」


私(村上義清)「隣の加賀が一向宗に制圧された原因が、当主が将軍の仕事のため京に居たからだからな……。それに今の朝倉が危険を冒してまで京に出陣する必要が無いしな……。」

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