第288話儲けの仕組み

真田幸隆「一向宗を利用することについて、殿はどのような考えをお持ちですか?」


私(村上義清)「空誓と話す機会があって一向宗についていろいろ教えてもらったのだけど、参考にするべきところもあれば怖いところもあった。」


真田幸隆「参考になるところは?」


私(村上義清)「一言で言えば集金の仕方になるかな。」


真田幸隆「どのようなものでありますか?」


私(村上義清)「最初、京で活動を始めたのだが後発の団体であるが故うまくいかなかった。と。」


真田幸隆「布教に失敗したのですか?」


私(村上義清)「いや。むしろうまくいきそうになったが故に目障りは存在になってしまったそうな。その相手が比叡山。」


真田幸隆「あそこですか……。」


私(村上義清)「ただ比叡山のやり口が酷過ぎたことが、今思えば良かった。と。」


真田幸隆「徹底的にやられたのでしょう。」


私(村上義清)「それを見た京の特に被支配者層が比叡山から離れ、一向宗に転じる者が増えたそうな。しかし、京の中に居てはいつ比叡山がやって来るかわからない。加えて当時の一向宗は今のような軍事力を持っていなかったため、様々な国を彷徨うことになってしまった。そうこうしている内に辿り着いたのが近江の堅田。」




 堅田は琵琶湖南西に位置する港町で京と北陸を結ぶ交通の要所。




私(村上義清)「この堅田を仕切っていたのが農業及び商工業の従事者たち。その大半が信仰してるのが浄土真宗。それも本願寺の教え。そこで当時の宗主であった蓮如(空誓の曽祖父)が行った施策。それが……。」




 自由放任。




私(村上義清)「本願寺は耕作に向いた田畑を持っているわけではない。交通の要所を抑えているわけでもない。そのため収穫物や関所からの収入を期待することは出来ない。でも堅田には人と物が集まる拠点である。ならば『自由に商売をしてくれ。』『大いに儲けてくれ。』『その儲けの全ては、利益を出したものが使ってくれ。』となったらどうなると思う?」


真田幸隆「今そこに居る者たちのやる気が増すことになりますし、商売がやりやすい場所ともなれば一山当てようと新規の者も増えて来ることでしょう。」


私(村上義清)「ただ1つだけ条件がある。その条件は勿論本願寺の信徒になること。ただそれだけである。税を貪るような真似はしない。とは言え、本願寺の世話になっている手前、某かの御礼はしなければ。となるのが義理人情と言う者。あちらがこれだけ出すのであれば、私はそれ以上のものを包んだほうが……。の競争が始まることになり、結果本願寺が潤いことになってしまう。そう言う仕組みを作ったそうな。」


真田幸隆「殿には無理ですね。」




 確かに。

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