第255話元のまま
一向宗とのいくさに勝利を修めた松平家康でありましたが、三河一向一揆の中心とも言える本證寺を攻め落とすことはありませんでした。何故かと言えば……。
春日虎綱「このいくさの最中、本證寺住職の空誓は衆人が見える場所に現れ自害しました。」
空誓が居なければ一向宗が組織的な抵抗することは出来ない。とは言えここは敵中のど真ん中である本證寺近郊。一刻も早くここを脱出したいと考えていた家康は、本證寺を攻めず。岡崎に向け兵を動かしたのでありました。
春日虎綱「しかし空誓は死んではいませんでした。」
真田幸隆「誰かが空誓の身代わりになったと?」
春日虎綱「はい。空誓の檄に呼応した円光寺の順正が一計を案じ、自らが身代わりになることにより空誓を守ると同時にいくさを止めることに成功しました。」
私(村上義清)「岡崎に戻った後の経緯を教えてくれ。」
春日虎綱「はい。一向宗側から家康に対し、和睦……正しくは降伏の申し入れがありました。」
私(村上義清)「条件は?」
春日虎綱「一言で言えば『元のまま』であります。一向宗側に加担したものの助命並びに一向宗側の持っている権利の維持であります。」
真田幸隆「『家康の傘下に収まるが、これまでの利権はそのままにしてくれ。』と言う事か?」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「それで家康はどうした?」
春日虎綱「その条件を認めました。」
私(村上義清)「ん!?」
春日虎綱「そうでしょう。『ん!?』になるでしょう。私もそう思いました。ただその条件で和睦は成立しました。成立はしたのでありましたが……。」
私(村上義清)「続きがあるのか?」
春日虎綱「はい。家康と一向宗との間に解釈の相違がありました。」
私(村上義清)「どのような?」
春日虎綱「先程述べました『元のまま』の解釈であります。一向宗側の『元のまま』は此度のいくさの前の状態を指します。一方の家康はそうではありませんでした。」
私(村上義清)「どのような解釈をしたと言うのだ?」
春日虎綱「家康の『元のまま』は1つ。『一向宗は浄土真宗。その浄土真宗は元々浄土宗から派生したもの。浄土真宗の元の姿は浄土宗。これに一向宗の僧侶は皆改宗するべきである。』との要求を突きつけます。因みに今回、家康側についた家臣はいくさの前に一向宗から浄土宗に改宗しています。」
私(村上義清)「それは無理だろう。」
春日虎綱「はい。一向宗側は当然拒絶します。そこで家康は『約束違反だね。』と和睦を破棄し、家康は家康が考える更なる『元のまま』を実行に移します。それが『今一向宗の寺がある場所は元々建物なんて無かったよね。防御するための壁なんて無かったよね。一向宗なんて無かったよね。』と一向宗の寺と言う寺を破壊すると同時に一向宗の僧侶を領外に追放しました。今、家康の領内に一向宗の痕跡は何1つ残されておりません。」
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