第252話要請

 翌月。足助の春日虎綱からの早馬が田峯の村上義清のもとに到着。




私(村上義清)「家康から『西尾城への兵糧の搬入を手伝って欲しい。』と言って来たそうな。」




 西尾城は鎌倉時代。三河守護に任じられた足利義氏が築いた城。旧名西条城。桶狭間の戦いの翌年。松平家康が攻め落とし、現在は酒井正親が城主。因みにこの足利義氏の子孫に室町将軍家があります。




真田幸隆「(虎綱からの書状を受け取り)どれどれ……。」


私(村上義清)「なにかわかることがあるか?」


真田幸隆「西尾城は矢作川(矢作古川)の西にあるため、(本拠地岡崎城が川の東に位置している)家康は川を渡らなければ城に辿り着くことが出来ません。これまで特に問題になることは無かったのでありましたが、今は一向宗と係争中。その一向宗とそれに呼応し、家康と戦っている桜井松平氏並びに荒川義広の本拠地を記しますと……。」


私(村上義清)「……そう言う事か……。」




 岡崎城から西尾城へは、上宮寺(一向宗)→桜井城(桜井松平)→本證寺(一向宗)→荒川城(荒川義広)を経なければ辿り着くことが出来ません。




真田幸隆「西尾城は現在敵中孤立の状態にあり、城主酒井正親から家康に対し、兵糧が尽きそうであるとの訴えが為されています。当初、家康自らが搬入を試みようとしたそうなのでありましたが、如何せん途中の道のりの全てが敵対勢力。各城(寺)には当然兵が籠っているため狙われる危険性があります。」


私(村上義清)「家康は自分のだけの兵では負けてしまうと考えている?」


真田幸隆「わかりませぬ。ただ今回の目的はあくまで兵糧の運搬であります。時間を掛けるわけにはいきません。」


私(村上義清)「そうだな。」


真田幸隆「かと言いまして、『とにかく兵糧を西尾城に運び入れるんだ。』と言うことを敵に悟られるのもよくありません。」


私(村上義清)「西尾城が食糧で困っていることがわかれば先回りして、搬入することが出来ないよう西尾城を囲むことも出来るし、家康が大量の兵糧を持っていることがわかれば途中で妨害し、あわよくば奪い取ることも出来る。」


真田幸隆「そのためには『一向宗及び桜井松平、荒川の各拠点を攻撃するために出陣しましたよ。城(寺)に籠っていてください。』と見せる必要があります。大量の兵で以て一揆勢壊滅への決意を示さなければなりません。」


私(村上義清)「そこで白羽の矢が立ったのがうち?」


真田幸隆「それと水野信元であります。」

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