第246話そこまでの余裕は

私(村上義清)「兵を出すことには反対か?」


真田幸隆「はい。兵を出すのであれば三河湾を目指すべし。これが2つ目の選択肢であります。」


私(村上義清)「それを採用すれば野田城を攻めることにお前は賛同するのか?」


真田幸隆「いえ。反対であります。」


私(村上義清)「珍しいな。普段俺のことを『敗れたものに対して甘過ぎる。』と言っているお前にしては。」


真田幸隆「仮に野田城を攻略したとしましょう。そうなった場合、まず今川は黙っていません。必ずや兵を野田城に向けることになります。その時、奥三河の衆はどのような行動に出るでしょうか?曲がりなりにも彼らは今川と行動を共にして来ました。一方我らは、権力の空白地帯を狙って来た侵略者であります。今川が奥三河奪還に本腰を入れて来た時、彼らはうちと今川のどちらを選択することになるでしょうか?


 2つ目。野田城は今、松平方であります。家康の本拠地は岡崎。西三河であります。今我らは足助を占領しています。その足助は西三河であります。しかも足助はまだ占領の段階であります。治めることは出来ていません。その足助のすぐ先には松平創業の地とも言える松平郷があります。しかも付近には足助の衆と同族のものが健在であります。幸い家康は一向宗との内乱に対応しているためそこまで手を回すことが出来ていませんが、仮にそのいくさに家康が勝利を修めた時、次どこを狙って来ることになるのか?


 最後、3つ目。野田城を取ったところで海に出ることは出来ません。その先にあります牛久保を治めることが出来て初めて海に出ることが可能となります。その牛久保を治めている牧野氏は徹頭徹尾今川方のものであります。今川にとっても重要な土地でありますし、松平も同様であります。奥三河のような対応をすることは絶対にありません。その消耗戦に巻き込まれることになってしまいます。そこまでの余裕は残念ながら今のうちにはありません。


 故に殿が軽はずみで兵を動かすことが出来ぬよう、殿には必要最低限の兵しか付けなかったのであります。」


私(村上義清)「(本当の目的は人質だろう……。)ここまでの話を聞いていて思ったんだけど。」


真田幸隆「何でしょうか?」


私(村上義清)「松平とある程度話が付いていると言う事か?そうでなければこの戦略を採ることは出来ないと思うのだが?」


真田幸隆「虎綱を通じ、事前の下交渉は行っています。首尾よく足助を取ることが出来ましたので今は本交渉の段階に入っています。それもありまして虎綱を足助に残しています。」


私(村上義清)「それを何で教えてくれないの?」


真田幸隆「囮の兵に囮であることを知らせてしまいますと、囮のものが『囮だから。』の行動をしてしまい、結果。相手に悟られてしまうことになってしまいますので。」


私(村上義清)「『長篠で不安に駆られていろ。』と言う事だったのか?」


真田幸隆「申し訳ございません。」


私(村上義清)「(……ったく……。)」


真田幸隆「あと最も大きな理由としまして……。」

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