第245話兵を進めるなら

私(村上義清)「奥三河の西の入口になり得る足助はうちが抑えていて、今川と隣接する長篠に俺が居る。その長篠を下った先であり、四郎が居る作手の山を下りた先にある……野田城を目指すことになるのが自然な流れになるのかな?もし野田城を奪うことが出来れば、奥三河の衆が、本貫地を他の勢力から脅かされる心配から解放することが出来ることにも繋がるのだから……。」


真田幸隆「確かに間違いではありません。ただそこには彼らと同族のものの権益があります。」


私(村上義清)「でも袂を分かった(今川方から松平方に転属した)のだろ?」


真田幸隆「はい。」


私(村上義清)「しかもその野田城は今。使い物にならないのだろ?」




 野田城城主菅沼定盈は桶狭間の戦いで今川義元が斃れた後、岡崎で独立した松平家康に帰属するも今川方に攻められ降伏。共に今川方を離れた西郷清員の許に身を寄せた定盈は再び兵を挙げ野田城を奪還。ただ野田城の損壊が激しかったため定盈は大野田城を仮の本拠に定め、野田城修復に励んでいたのでありました。因みに定盈が身を寄せた西郷清員は自らの本拠地が今川の手により攻め落とされたため、現在はつい先日匿った定盈が居る大野田城に駆け込んでいたのでありました。




私(村上義清)「この動きに奥三河の衆はどう見ているんだ?」


真田幸隆「自分たち(奥三河の衆)が今川と松平の争いに巻き込まれているわけではありませんし、もっと言いますと野田城自体も同様であるにもかかわらず、今後。どうなっていくことになるのかわからない。まだ東三河の入口にしか顔を出すことが出来ていない。西三河もこれからの段階にある家康の誘いに乗ってしまった定盈を非難するものも居ないわけではありません。ただだからと言いまして、こちらから兵を出すことについては……。」


私(村上義清)「お前にしては珍しいな。躊躇するとは。」


真田幸隆「今川と喧嘩してしまった以上、今川領からの人と物の流れが止まってしまうことになります。それは覚悟の上での行動であります。それは仕方ありません。しかし、我らは奥三河から海に出る道を持っているわけではありません。某かほかの勢力を通らなければなりません。今川は使うことが出来ません。そうなりますと残された道は2つしかありません。1つは足助の権益を確保しながら松平との関係を強化していくことであります。今家康は一向宗との争いに忙殺されているため野田城を救うことは出来ません。実際問題、家康方となった西郷氏の本拠地は今川の手に落ちています。野田城にしましても奪還したのは定盈の自力であります。家康が何か支援したわけではありません。」


私(村上義清)「苦境に陥っている家康を北から支える。兵を出すなら野田城では無く、西郷の権益を取り戻すため。と言う事か?」


真田幸隆「北から支えることについては賛成であります。ありますが……。」

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