第129話代替わり

 直轄地となった松本平の管理と、耕作から引き離した旧小笠原家臣の給料を現金で支払わなければならなくなったため、その捻出方法に苦慮する村上義清。その頃、関東では政変が……。




私(村上義清)「(北条)氏康が隠居したと……。」


真田幸隆「はい。」




 伊豆相模を拠点に武蔵。更には関東全域へと勢力圏を拡大していた北条氏康が突如。息子の氏政に家督を譲ったのでありました。




私(村上義清)「家臣が氏康を……。」


真田幸隆「いえ。そうではありませぬ。実権は氏康が握っています。……どうやら飢饉が関係しているようであります。」




 この年、日本全国で災害が多発。隣の甲斐の国では大風と大規模水害が発生。北条氏康が領する関東においても大凶作。




私(村上義清)「コメはとにかく面倒だからな……。」




 コメを作るには水と日の光。それに適度な気温が必須。無ければ育てることが出来ない一方、あり過ぎてもそれはそれで制御することが難しい厄介な作物。




真田幸隆「収穫量を思えば魅力的ではありますが……。」


私(村上義清)「しかし3年に一度は不作になるからな……。」




 豊作の年に増えた人口が、不作の年の枷となる。これが野生生物の生態系と考えれば自然なことなのではありますが……。




私(村上義清)「『(不作になるのが)わかっているなら備蓄しておけ。』と突き放すわけにはいかないからな……。」


真田幸隆「その時のために民は税を納めていますので。」


私(村上義清)「そうなんだよね……。それで氏康が……。」


真田幸隆「責任を取り隠居しました。」


私(村上義清)「理由はそれだけでは……。」


真田幸隆「はい。徳政令をお願いすることもあります。それに……。」


私(村上義清)「それに……。」


真田幸隆「これは正直申し上げたくないのでありますが……。」


私(村上義清)「次なる飢饉に備えることを名目に、領内の人と物。それに田畑の全てを北条家が見れるようにしたんだろ。」


真田幸隆「……はい。」


私(村上義清)「それを息子(氏政)の実績にしたんだろ。」




 この時、北条氏康45歳。当時は人間50年の時代。自らの余命を考えると、息子への政権移行を進めて行かなければならない時期。




私(村上義清)「こう言ってはなんだけど、氏康は飢饉を活かしたよな……。」


真田幸隆「はい。ところで……。気になりますのが甲斐の国……。」


私(村上義清)「あそこは大水の克服を国是にしている。その中での今回の大水……。」


真田幸隆「堤の完成は相当先になるかと……。資金につきましても金山はありますが……。」


私(村上義清)「それでは足りないから外に目を向けたのだからな……。」


真田幸隆「はい。……何事も無ければ良いのでありますが……。」

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