第23話 番外編1.妹はまだ中学生になってない

「ど、どうですか、お兄ちゃん。変じゃないですか?」

 白いブラウスに紺のネクタイ、チェックの膝上スカート、黒ニーソックス。

 上には紺色のブレザー。

 ブレザーは少し大きめにつくったので、袖がやや余っている。


「ふーん、いいんじゃないか?」

「えぇっ、初めてのお披露目なのに! もっと感動してくださいよ!」


 桜羽家の自宅、リビング。

 中学入学を数日後に控えて、雪季ふゆは仕上がった制服を引き取ってくると、さっそく兄の前で着てみせたのだ。


「そうはいっても、もうその制服も見飽きたからなあ」

「私が着るのは初めてですよ! もうーっ、もっと可愛さを! 可愛さを讃えて、私をいい気分にさせてください!」

「いや、雪季が可愛いのは当たり前だし」

「…………っ、そ、そうであってもです! あらためて言葉にされたい乙女心なんですよ!」

 雪季は顔を真っ赤にして、わめいている。

 少し褒めただけでこれなのだから、これ以上言うと気絶しそうだ。


「でもまあ、デカくなったよなあ。クラスで背も高いほうだよな?」

「デカいって言い方は……でも、そうですね、背の順だとずっと後ろのほうでした」

 春太も背は高めだが、雪季も負けずににょきにょき伸びている。

 両親揃って背は高いので、間違いなく遺伝だろう。


「雪季が中学生か……この前までランドセルを背負ってたのにな」

「この前というか、数日前までですけどね」


 長身の雪季には、ランドセルはもうだいぶ違和感があった。

 卒業した小学校は、ランドセル以外のカバンは禁止だったので仕方ない。


「あ、ちょっと待ってろ」

「はい?」

 春太は一度自室に行き、すぐにリビングに戻ってきた。


「これ、頼む」

「正気ですか、お兄ちゃん」

 目を丸くしつつも、雪季は春太が差し出したものを受け取った。

 それから、制服のままで背中に背負う。


「おお……制服ランドセル! なんか背徳的だな……!」

 春太はソファに座り、じっと妹の姿を見つめる。

「お兄ちゃん、初めての制服でハシャいでる妹で遊ばないでくれます?」

 ブレザーを着ていることもあって、絶対に小学生には見えない雪季が赤いランドセルを背負っているのは衝撃映像だった。


「もっと笑えるかとも思ったが、普通に可愛いな。撮っておこう」

「あっ、写真まで! あーん、私の黒歴史になっちゃいます!」

 がばっと雪季が嘘泣きしながら抱きついてくる。

 ランドセル女子中学生に抱きつかれる兄――いろいろな意味でアウトだ。


「あ、そうでした。制服も大事ですが、もう一つ大事なこともあるんです」

 泣き真似をすぐにやめ、雪季は春太から離れた。

 なにを思ったのか、ぴらりと膝上のスカートをめくる。


「今日はピンクの日だったな、そういや」

 雪季は、白かピンクか水色のパンツしかはかない。

 奇遇なことに、兄の色の好みと一致している。


 今日の雪季のパンツは、薄ピンクでうさぎのマークがワンポイントで入ったものだ。

 しかし、ランドセルを背負って中学の制服を着た女子が、スカートをめくってパンツを見せている光景はアウト以外のなにものでもない。


「お兄ちゃんは知ってますよね。中学って、ショーパンとかスパッツは禁止だそうです」

「スカートの下にスパッツをはけ、だったらわかるけどな。謎校則だよなあ」


 春太も、雪季がこの春から通う中学の生徒なので知っている。

 スカートの下にショートパンツ、スパッツ、ハーフパンツなどの着用は禁止だ。

 エロ中年教員が決めた校則なのではと疑いたくなる。

 といっても、実は男子生徒にもこの校則は適用されて、制服のズボンの下にハーフパンツなどは着用禁止だ。

 意味が不明すぎる。


「気をつけろよ。膝上スカートでも、階段の下からとか意外と見えるぞ」

「なんで知ってるんです?」

 ジト目になる妹。


「か、風の噂でな。ああ、風が吹いても意外とがばっとめくれるし、マジで気をつけないと」

「このくらいのスカートは私服でもはきますから、わかってますよ。気をつけます。ただ、体育の着替えで女子に見られることはありえますから。このうさちゃんパンツも卒業ですかね……」

「そうだな……あんま、プリントが入ったパンツをはいてる女子はいないぞ」

「なんで知ってるんです?」

 再びジト目になる妹。


 兄はまた余計なことを言ってしまったようだ。

 春太も別に女子のパンツをの目たかの目で狙っているわけではない。

 ただ、階段の高低差や風のいたずらで目撃してしまうことはあるのだ。


「ま、いいです。やっぱり、もうちょっと大人なパンツをはきましょう。というわけで、動物プリントのないパンツがこちらです」

「購入済みかよ」

 制服が入っていた紙袋がリビングの床に置かれていたが、そばに別の小さな袋もあった。

 そこにパンツが入ってるらしい。


「そうは言っても、中学生ですからシンプルなパンツがいいと思うんですよ。シルクとかレースは背伸びしすぎで、むしろ可愛くないです」

「そうだなあ、たまに黒パンツとかはいてる女子がいるが、ああいうのはせめて高校生になってからだよな」

「だから、なんで知っ――話が進まないので、ツッコミ放棄します」

「そうしてくれ」

 つい、いらんことを口走ってしまう兄だった。


「じゃあ、ちょっとはき替えてみますね。少々お待ちを」

「部屋で着替えてこいよ」

 雪季はスルーして、スカートの中に手を入れ、するりとパンツを脱いだ。

 特になにも言わず、雪季は春太の手に脱いだパンツを渡してきた。

 床にそのまま置きたくなかったのかもしれないが、兄に渡さなくてもいいのではないか。


「…………」

 春太は、生あたたかい薄ピンクのパンツを持ったまま妹の姿をじっと眺める。

 雪季は袋から取り出した白のパンツを、さらに包みから出して足首に通し、すうっとはいた。


「あ、これはき心地いいかもです。ママに予算をもらってちょっと高いの買ったんですけど、正解でしたね」

「はき心地ってそんな変わるもんか」

 春太も今はトランクスを愛用しているが、いずれボクサーパンツに替えたいと思っている。


「うーん、やっぱり中学制服の下だと普通のパンツが合いますね。ガラとか入ってないヤツがしっくりきます。どうですか?」

 雪季はスカートの裾を大きく持ち上げ、はいたばかりの白パンツを見せつけるようにして、くるりと一回転する。

 ピンクのリボンがついた前側と、小ぶりで可愛らしいお尻を包む後ろ側を何度も見せてくる。


「うん、可愛いな。パンツ、ちょっと大きめだから尻も隠れてるし、露出度的にもちょうどいいんじゃないか?」

「お兄ちゃんのお墨付きが出ました。じゃあ、はき心地と見た目はバッチリですね。あ、これ手触りもいいですよ。ほら」


 雪季がスカートをめくり上げたまま、白パンツに包まれた尻を見せつけてくる。

 春太はなにげなく、パンツの上から妹の尻に触れる。

「きゃんっ♡ もうっ、お兄ちゃん、いきなりはダメですよ♡」

「おまえが触れとばかりにこっちに見せつけてきたんだろ。手触りはよくわからん」

「えー、いい布なのに……お尻触られ損じゃないですか」

「損得の問題か?」

 春太は、まだはしたない格好をしている妹のスカートを戻させる。


「でも、制服着てると変なのに狙われやすいらしいぞ。マジで気をつけろよ」

「はぁい。行き帰りはお兄ちゃんと一緒ですよね?」


「一応、俺は部活もあるからな。もし帰りが遅くなることがあったら、必ず俺に言えよ。部活サボって一緒に帰るから」

「さすがです、お兄ちゃん」


 春太はバスケ部に所属しているが、親友の松風に付き合って入っただけだ。

 可愛い制服JCの雪季を一人で登下校させるのは心配だし、部など辞めて妹のガードにつこうかと本気で検討している。


「あ、まだランドセル背負ったままでした。もうこれともお別れなのに」

 中学の制服にランドセル、お子様パンツに中学生パンツと目を楽しませてくれる妹だった。

 春太は、まだあたたかい生パンツも握り締めたままだ。


 そういえば、と春太は気づく。

 今はまだ三月下旬。

 雪季は卒業式を終えたとはいえ、形の上では年度が替わるまで小学生なのだろうか。


 身内びいき抜きでも、雪季はまだ小学生なのに美人で、ちょっと背伸びしたパンツが似合う。

 この妹は、これから先どれだけ可愛くなっていくのだろうか。

 楽しみでもあり――少しだけ、なぜか不安も覚える兄だった。



 →番外編2「初めてのブラジャー編」に続く……?

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