水曜日の晩に

月之影心

とある水曜日

『じゃあまた来週話そうね。」

「あぁ、おやすみ。」


 そう言って俺、牧村翔まきむらしょうはパソコンのモニタの右下にある退室アイコンをクリックしてログアウトした。


 Web会議…ではなく、ミーティングアプリを使ってオンラインで会話をしていた相手は古田愛良ふるたあいら


 俺と愛良は、実家が隣り同士で物心付いた頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染である。

 幼稚園から高校までずっと一緒だった。

 時に同級生にからかわれ、時に妬まれ、羨ましがられた事もあった。

 大学は、俺が平凡に『将来の学歴の為』に地元の大学へ進んだのに対し、愛良は『デザイナーになりたい』と専門的な勉強が出来る遠く離れた大学を選んだ。

 俺はそのまま大学を卒業し、地元の企業に就職した。

 愛良は2年程ある出版社に勤めた後退職し、今は自分で小さなデザイン会社を興して経営していると聞いた。


 幼馴染だからというのもあるが、俺と愛良は何事も気兼ね無く言い合える仲で、遠く離れて暮らしていても何かあればお互いにすぐ連絡を入れていた。

 初めはメールや電話だったのが無料通話アプリになり、今はミーティングアプリを使ってお互いの顔をモニタ越しに見ながら話すようになっていた。


 話と言っても、『今日は楽しかった』とは毎回言いつつ、何を話したとかは特に覚えていなくても問題無いような、実にくだらない話ばかりだった。

 今日もログアウトした直後には既に『面白かったけど何の話で笑ったんだっけ?』という状態になっていた。

 それがまた何とも言えず気楽で癒しを覚え、俺にとっては唯一と言っても良い癒しの時間だった。


 そんな関係もそろそろ8年目を迎えようとしている。

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