10 セラ、酔った勢いで大人の階段を上る4《聖女たちSIDE》

「セラ、元気がない」


 廊下をとぼとぼと歩いていると、シーリスが声をかけてきた。


「シーリス……実は」


 セラは彼女に昨日の出来事を告白した。

 誰かに言わずにはいられなかった。


「なるほど……セラはあの人と一夜の過ちを犯した、と」

「うう……あらためて言われると凹むわね……好奇心と欲望に負けたの……」


 セラはがっくりとうなだれた。


「しかも、相手は『遊びだった』なんて言ってるし。完全に処女の捧げ損よ」

「シーリスみたいに『女の武器』と割り切って、いろんな男と寝まくる生き方もある」

「私はそこまで割り切れないわよ」


 淡々と語るシーリスに苦笑を返すセラ。


「かといって、マリンみたいに自分の欲望に忠実に生きる、っていうのも難しいし……」


 なんとも中途半端な生き方だ。

 セラは自嘲する。


「……そういえば、以前にマリンが一夜の恋を楽しんだときに、胸に紋章が浮かんでた。シーリスもデッカードの皇太子と寝た時に同じ紋章が浮かんだ」


 シーリスがこちらをジッと見ている。


「セラは?」

「えっ、私は――」


 おそるおそる胸元を覗く。


「あ……」


 淡い光を発していた。

 今まで気持ちが凹みすぎて気づかなかったのか、あるいは急に発光現象が起きたのか。


 どちらにせよ、シーリスやマリンのときと同じだった。

 胸元を開いてみてみると、やはり花のような形の紋章である。


 しばらく光った後、消えてしまう。


「……この紋章って、また出てくるのよね? シーリス、確かそう言ってたわよね」


 ふと嫌な予感がした。


 おそらく、さっきの紋章はセラたちがロメロ以外の男と肉体関係を持ったことで現れるようだ。


 少なくともシーリスやマリンと自分の状況は完全に一致している。


「婚約者に紋章を見られたら……カンが良ければ気づくかもしれないわね」


 セラが他の男に抱かれた、という事実に。

 当然、そうなれば破局だろう。


 その辺の町娘ならともかく聖女と呼ばれるセラが結婚前に、それも夫となる男以外の相手に肌を許したなど、確実に破談案件だ。


 そして、その噂はすぐに広まる。

 下手をすると、結婚自体が事実上不可能ということにも――。


「いやだ……私、結婚願望は強いんだからね」


 セラがうめいた。


「ロメロなら……私を受け止めてくれるのかな」


 空を見上げ、つぶやく。

 そこにロメロの笑顔が見えるような気がした。


「――って、これじゃ恋する乙女みたいじゃない! 今のなし! 絶対なし!」


 セラはすぐに妄想を振り払うのだった。

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