8 海神の誘惑

「へえ、寝所――って、ええっ?」


 いや、さすがに神様から、そんな誘いはされないよな……?


 俺は、この間の黒竜王討伐のことを思い出した。


 襲われた村を救い、宴の後で、俺は五人の美しい村娘たちから迫られ――まあ、その、据え膳というか、一夜を共にしたというか……。


「察しが悪い男よの。だが、そんなところにも惹かれてしまう……」


 言いながら、デルフィーナが俺に抱き着いてきた。


「んんっ……!?」


 そのまま唇を奪われてしまう。

 ついでに舌も入れられた。


 そのまま数分、ねっとりと舌を絡められ、唇を吸われ、唾液をすすられ……熱烈なディープキスが続く。


 俺はすっかり骨抜き状態で、へたり込みそうなほど脱力してしまった。


 体中がフワフワして蕩けてるみたいだ。

 キスだけでこんなに気持ちがいいとは……。


「デルフィーナ……?」

「お前には命を救われ、さらに逆恨みしたわらわを寛大にも許してくれた。これはその感謝の気持ちだ」


 デルフィーナはうっとりした顔で俺を見つめている。

 冗談を言っている様子ではなかった。


「さあ、わらわの体を一晩好きにするがよい」

「な、何言って……?」

「ふふふ、滅多な男では、このわらわに指一本触れることすらできんぞ。光栄


 するり、と衣を脱ぎ捨てる海神。

 その下はオールヌードだった。


 豊かな乳房はツンとして形がよく、くびれた腰や丸みのある尻は芸術品のような美しさ。

 海皇獣との戦いで一度目にしているが、こうして間近で見ると、色気とか迫力とかが全然違う――。


「さあ、わらわを好きにして……」


 濡れたような瞳が俺を見つめる。


「ち、ちょっと待て……」


 思念を込めれば、いくら海神でも止められるに違いない。

 けど、心臓がバクバクして、とても集中できる状態じゃない。


 どうしよう、どうしよう――。


 まるで思春期の少年さながらに、俺は動転していた。


 そりゃ、童貞じゃないけど――女神様に迫られて、さすがに平静ではいられない。


 いられるわけがない。


 この間の村娘五人から同時に迫られたときは、ここまで狼狽しなかったのにな……。




 ――その夜、海神の寝所から艶めいた喘ぎ声が聞こえてきたとか、こなかったとか。

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