5 海神の領域

 俺は上昇し、空中の彼女に追いついた。

 そのまま横抱きにする。


 どうやら完全に気絶しているらしく、一向に目を覚ます気配がない。


「さすがに目の毒だな……」


 彼女の裸身をチラリと見てつぶやく。


「とりあえず、彼女を安全な場所に運ぼう」


 俺は周囲を見回した。


 リバイアサンがいた場所の近くに小さな島がある。

 とりあえずはそこに着地させるか。


 俺はいったん地上に降りて、スミレと合流する。


 スミレと彼女の二人を抱きつつ、空中に移動。

 そのまま真っすぐ飛行して島にたどり着いた。




「ん……」


 しばらくすると、ようやく彼女が目を覚ました。


 青みがかった肌に深緑色の髪をツインテールにしている。

 神秘的な雰囲気を漂わせた美女だ。


「大丈夫だったか?」


 俺は荷物から適当な布を出し、全裸の彼女を視界に入れないようにそっぽを向いたまま、渡した。

 とりあえず裸身を隠してもらうためだった。


「…………!」


 が、彼女は無言のまま、布を受け取ろうとしない。

 というか、ものすごく怒ってるような雰囲気なんだが……?


「えっと……?」


 俺はおそるおそる振り向いた。


「おのれ、人間! そこへ直れ!」


 彼女が怒声を上げた。


「えっ?」

「わらわの裸を見たのであろう!」

「ま、まあ、それは……」


 だって裸で触手に捕らわれてたし。


 どうしたって、自然と視界に入ってくる。


「神の裸体を目にして平然と……なんという無礼な男!」


 彼女は怒り心頭のようだ。


「――って、神?」

「わらわは海神デルフィーナ! この海を司る女神であるぞ!」

「女神様……って……」


 確かに人間離れした美貌だけど。

 唐突に言われても、理解がついていかなかった。


 まあ、裸を見てしまったのは悪かったかもしれない。


「緊急事態とはいえ、申し訳ない」


 素直に謝っておこう。


「ええい、許しがたい!」


 が、海神の怒りは収まらないらしい。


「千の肉片に刻んでくれるわ!」


 長大な鉾を手に、襲い掛かってきた。


 めちゃくちゃ気が短い神様だ!


「【防御】」

「はあっ!」


 目にもとまらぬ鋭い突きが繰り出される。

 だが、すでに俺を完璧に守る防御壁が出現した後だった。


 がきん、と鉾が跳ね返される。


「なんだと、わらわの攻撃が――」

「けど、やっぱり攻撃が見えないのは怖いな。【俺の反応速度を限界まで上げてくれ】【動体視力や運動能力全般も頼む】」


 とにかく接近戦で必要になりそうな能力を底上げしておく。


「何をブツブツ言っておるか! 一撃止めたくらいでいい気になるなよ! 今度は連撃で仕留める!」


 海神がふたたび鉾を構えた。


「【千烈突き】!」


 槍術系のスキルらしきものを発動させる。


「見える――」


 その攻撃の軌跡が、今度ははっきりと見えた。


 反応もたやすい。


 俺は防御壁を使わず、反射神経に任せて連撃を避けた。

 避けまくった。


 ――とはいえ、避けているだけではどうにもならない。


 なんとかして、神様に分かってもらわないとな。

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