5 『超越者』の紋章

「そうかもしれない……でも、あたしは選ばれなかった」


 スミレが首を左右に振る。


「俺に近づいたのは、それが理由か?」

「……うん」


 素直にうなずくスミレ。


「羨ましかった」

「そうか……」

「でも、今はちょっと違う」

「ん?」

「あなたに興味が出てきてる。今度は本当」


 言って、スミレが微笑む。


「一つ、お願いしたいことが」

「なんだ?」

「紋章を見せてほしい」

「紋章? ああ、ジョブの紋章のことか?」

「『超越者』の証を見てみたい」

「いいぞ。隠すようなものでもないしな」


 俺は右手を差し出した。


 手の甲を上に向ける。

 そこに浮かんでいるのは、王冠を意匠化したようなデザインの紋章だ。


「これが――」


 スミレが息を飲んだ。

 おずおずと手を伸ばす。


「ちょっとだけ……」

「別に気が済むまで触っていいぞ?」

「でも……恐れ多いから……」


 言って、スミレは遠慮がちに俺の手の甲に――そこに浮かび上がる紋章に触れた。

 小さくてあったかい手だ。

 と、


 ヴ……ン!


 鈍くうなるような音が鳴った。


 紋章がぐにゃりと歪む。

 その形が変化していく。


「なんだ、これは……?」


 地図――みたいだけど。


「見たことのない地形だ」


 シュン……ッ。


 しかも一瞬で消えてしまった。


「うーん……スミレは分かるか?」

「あたしも、見たことない」


 ふるふると左右に首を振るスミレ。


「一瞬で消えちゃったから、詳しい地形が分からないな……」

「あ、それなら大丈夫」

「えっ」

「あたしが全部記憶した」

「あの一瞬でか?」

「ほぼほぼ」


 微笑むスミレ。

 頼もしい笑顔だ。


「もしかして、それって『忍者マスター』のスキルなのか?」

「そう。今、書いてみる」


 スミレは懐から筆と紙を取り出した。

 ささっとすごいスピードで書いていく。


 やがて完成したのは、精巧な地図。


 三日月のような形をした島や、その周辺の陸地が描かれていた。

 薄れかけていた記憶が鮮やかによみがえる。


「そうだ、こんな地形だった――」

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