9 四人の乙女の動向2《聖女たちSIDE》

 その日はパーティの後、城に宿泊した。

 そして翌朝――。


「おはよ、セラ」

「おはよう、マリン――って、なんだか顔が艶々してない?」

「ふふふふ」


 マリンは満面の笑みを浮かべていた。

 その表情でピンときた。


「ねえ、もしかして参加者の誰かと一夜を共にした、なんてことは……?」

「もう魔王は倒したんだし、ちょっとくらい羽目を外したっていいじゃない」


 セラの問いに即答するマリン。


「あなたは魔王討伐の旅の間も、しょっちゅう羽目を外してたじゃない」


 セラは呆れたようにため息をついた。


「だって、いい男がいるとつい体が疼いちゃって」

「疼いちゃって、じゃないわよ。変な噂が広がったらどうするの?」

「平気平気。あたしは天下の女勇者マリン様よ」

「だからといって、誰とでも寝るのは感心しませんわ」

「マリンは肉食系だから」


 エルザとシーリスも起きてきた。


「ま、刺激的な時間ではあったわ。あのオッサンのせいでモヤモヤしてたから、それを振り払う程度には――」


 マリンの言葉が不意に途切れた。


「えっ……? なに、これ――」


 彼女の胸の辺りが淡く光っている。


「熱い――」


 胸の合わせ目の紐を外し、胸元を露出するマリン。


 豊かな乳房の間に花のような形をした紋章が浮かび上がっていた。


「えっ? えっ?」


 マリンが戸惑いの声を上げる。


「こんなの、昨日まではなかったのに……」


 しばらくすると、その紋章は消えてしまう。


「どういうことなのよ……」


 マリンも、そしてセラたちも呆然としていた。




「ま、考えても分からないことは仕方ないとして――今後のことだね」


 しばらくして、マリンは気を取り直したようだった。

 すでに紋章は消えている。


 原因は、結局謎のままだった。


(もしかしたら――ロメロ様に対する『服従』に関係している、とか?)


 その考えに根拠があるわけではない。

 ただの直感だった。


 彼女たち四人はロメロに『服従』した。

 だから、彼以外の男に肌を許したことが彼への『裏切り』としてカウントされ、その証として紋章が浮かび上がった――。


(……なんて、何を考えているのよ。妄想もいいところだわ)


 セラは頭の中でその考えを否定した。


「ねえ、マリンが相手をしたっていう男性の話だけど」


 セラは自分の考えから離れようと、自ら話題を振った。


「もしかして……結婚まで考えてるとか?」

「一度寝たくらいでそこまで考えないよ」


 セラの問いに、マリンは肩をすくめた。


「まあ、それくらい魅力がある男がいればいいんだけど……昨日見た感じ、顔はよくても、ちょっと線が細い男が多かったかな」


 マリンがつぶやいた。


「あたしはもうちょっとたくましい方が好み」

「それなら、ロメロ様が――」

「……なんで、あんな奴に『様』をつけるのよ?」

「えっ」


 不愉快そうなマリンに、セラは驚きの声を上げた。


「私……ロメロ様なんて言ったの?」

「言いましたわよ」

「確かに……聞いた」


 横からエルザとシーリスが言った。


「嘘……」


 セラが呆然となる。


「あのオッサンをロメロ……様……って……?」


 どくんっ……!


 その名前をつぶやいたとたん、胸の鼓動が高鳴った。


「何……これ……?」


 胸の奥に甘酸っぱい陶酔感がこみ上げてくるのは。


 彼のことは忌々しい思い出のはずなのに。

 大嫌いなはずなのに。


 以前は単なる雑用係として見下していた。

 自分たち四人の奴隷だと思っていた。

 もちろん、恋愛対象からはもっとも遠い存在だ。

 なのに――、


「ロメロ…………………………さま」


 みたび、彼の名を口に出してみた。

 それだけで体の内側が火照りだした。


(どうなっちゃったのよ、私……?)


 服従するための『儀式』として彼と交わした口づけを思い出す。

 婚約者と交わすキスとは、まるで違っていた。


 唇が触れただけで体中が甘く蕩けるようだった。


 忌々しさと、熱い思慕と――。

 自分の中に、相反する二つの感情が同居していた。


「ねえ、ロメロ様……じゃなかった、ロメロを追ってみない?」


 セラは半ば衝動的に提案した。


 会いたい。

 そんな気持ちが胸の奥からこみ上げている。


「はあ? なんであのオッサンを?」

「二度と会いたくもないですわ。わたくしのファーストキスを奪った忌まわしい男になんて……」

「会う必要性を感じない……」


 マリン、エルザ、シーリスがいっせいに反対する。


「でも、私たちは彼に『服従』しているじゃない」


 セラが三人を見回した。


「それを解いた方がいいと思う。たぶん、今もかかったままよ。服従」


 そう、自分の胸の中にある妙な気持ちは、きっとそのせいだ。


 冗談じゃない、と思った。

 あんな男に思慕を抱くなど、絶対に嫌だ。




※ ※ ※


次回から第3章になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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