3 四十一歳、冒険者デビュー

 冒険者ギルド。


 世界規模で展開される冒険者たちの組合である。


 さまざまな依頼がギルドに集まり、それを希望する冒険者に斡旋する。


 逆に言えば、仕事の斡旋を受けるためには、まずギルドに登録して正式に『冒険者』になる必要があるわけだ。


 登録自体は申請すれば誰にでもできる。

 冒険者というのは『資格』ではなく、いわば『ギルドの加入員』のようなもの。


 ――というわけで、俺は近くの町のギルド支部にやって来た。


 建物に入り、窓口に行く。


「冒険者登録をお願いしたいんですが」

「えっ、新規加入ということですか?」


 窓口嬢――二十代前半くらいの美人だ――は驚いた顔をした。


 ま、この年齢で新たに冒険者になろうって奴は珍しいだろう。

 ただ、年齢を理由に断られたり、嫌な顔をされたり……ってことは特になかった。


 受付嬢は俺の申し出を淡々と受理し、申請用紙を差し出す。

 必要事項を記入し、しばらくして受付嬢が一枚のカードを持ってきた。


「こちらが冒険者ギルドの身分証明証兼依頼達成記録器――いわゆる『ギルドカード』になります。クエストの受注から報酬の受け取りなど、様々な局面で使用することになりますのでなくさないでくださいね。もし、なくした場合はその方の実費負担で再交付となります」

「分かった。大事に使うよ」


 ギルドカードを受け取る俺。

 ちなみに初回発行に関しては料金はかからないそうだ。




 窓口を離れ、掲示板に向かう。

 そこにさまざまな仕事の依頼書が張り出されているそうだ。


「これで俺も晴れて冒険者だ」


 ギルドカードを見て、思わず微笑みがこぼれた。


 数十年来の憧れだった冒険者――。

 実際になってみれば、書類一つで簡単になれるんだな、という感想だった。

 と、


「おいおい、オッサン。その年で冒険者になろうってのか?」

「自分の年、考えたほうがいいんじゃねーのか?」

「ははは、オッサンおびえてんじゃねーか。みんな、いじめてやるなよ」


 若者たちが俺を嘲笑する。


 剣士二人に魔法使い二人、という構成の四人組。

 いずれも二十歳前後くらいだろうか、男が三人に女が一人である。


「ま、確かに場違いだよな」


 そこは認める。


「けど、何かを始めるのに遅すぎるってことはないと思うぞ、俺は」

「はあ? もしかして俺たちに説教してんの?」

「これだからオッサンは」

「もう、みんなやめなさいよ」


 パーティの中で紅一点の女が三人をなだめた。


 赤い髪を長く伸ばした美女剣士である。

 さしずめこのパーティの『姫』といった雰囲気だった。


 顔も――まあ、整っている方だろう。

 さすがにセラたちのような『絶世の』美貌ではないが、一般的な基準なら十分に美女である。


「ちょっと! 何あたしに色目使ってるのよ!」


 女が俺をにらんだ。


「オフェリア、こいつシメちまおうか?」


 男たちの一人が彼女――オフェリアに言った。


「さすがに公衆の面前でボコるのはまずいわよ。そうね……勝負してみない?」


 と、俺にたずねる。


「勝負?」

「あたしたちが勝ったら、あんたは有り金を全部払う。そして冒険者も辞めてもらう。偉そうに説教した上に、あたしに色目を使った罰よ」

「別に説教したつもりはないし、色目も使ってないが……」


 突然の申し出に困惑する俺。


「俺が勝ったら?」

「ありえないわね。そんなことになったら……そうね、このあたしを自由にしていいわよ」


 オフェリアが自分の胸を突き出すようにして言った。


 俺を挑発してるんだろうか、胸元の合わせ目を緩めて、深い谷間を見せつける。


 ……べ、別に、そんなことをされても動揺はしないぞ。

 しないからな。


「お、おい、オフェリア」


 男たちが慌てた様子を見せる。


「大丈夫大丈夫。勝負の内容は――討伐クエストでつけましょ」

「討伐クエスト?」

「あたしたちがさっき受注したの。南の森にいるゴブリン退治よ。それにあんたも参加して。どっちが多く討伐するかで勝負するの」

「なるほど。シンプルだな」


 俺はうなずき、言った。


「分かった。いいぞ」

「と言っても、あたしたちの方が若いし人数も多い。なんならハンデをあげても――って、えっ?」

「いいぞ、と言った。お前たちの言う条件を了承する」


 俺は彼らを見回した。

 半ば勢いだけど、とりあえず勝負を受ければ、話は収まるだろう。

 俺としても冒険者になった早々、こんな連中にいつまでも絡まれたくはない。


「……ちゃんと理解して言ってるの? あたしたちの方が人数は多いし、経験も戦力も上よ」

「だろうな。見れば分かる」


 俺はニヤリと笑った。


「さっさと始めよう。記念すべき初クエストだ」

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