8 悔やむ四人の乙女たち《聖女たちSIDE》

「行かないで……ロメロ様ぁ……」


 セラは泣きながら地面に突っ伏す。

 嗚咽を漏らす。


 他の三人も同じだ。


 慕う男に捨てられた悲しみで、涙を流すことしかできない。

 そうして数時間も経ったころ、


「あ、あれ? なんであたし――あんな奴に、ロメロ様なんて呼びかけたんだ? それに土下座なんて……ちくしょう」


 マリンがハッとした様子で顔を上げた。


「王女たるわたくしが、下賤な男に膝を屈するなんて……ああ、最悪ですわ」

「シーリスも……この屈辱、記憶から消したい……」


 エルザとシーリスもそれぞれ頭を抱えている。

 まるで憑き物が落ちたかのような様子だった。


(確かに……どうしてさっきまであんなに悲しかったのかしら? ロメロなんかに別れを告げられても、別になんとも思う必要はないのに)


 セラが内心でつぶやく。


 先ほどまでは頭がポーっとなっていた。

 思考にモヤがかかったようだった。


 もしかしたら、それが『服従』とやらの効果なのかもしれない。


 が、ロメロが去っていったからなのか、時間経過のせいなのか、少しずつ思考がクリアになってきている。

 同時に、ロメロへの甘い感情が薄れ、代わりに怒りと屈辱感がこみ上げてきた。


「私……どうして、あんな男に……自分が許せないわ……!」


 服従したことも。

 キスを許した――いや、あんなのは奪われたのも同然だ。


 恋人であるフィリップ王子にも申し訳が立たない。

 フィリップ以外には誰にも許したことがない唇を、よりによってあんな冴えない男に与えてしまったのだ。


「ロメロ……絶対に許さないから……!」


 つぶやきながら、そっと唇をさする。


 熱い――。

 そこにはまだ、彼との口づけの余韻が残っていた。


「忘れましょう、みんな。あんな奴に頭を下げようが、キスをしようが――魔王の呪いを解くためにやったことよ。ただの形式的な――ただの、儀式」


 自分自身に言い聞かせるように、三人に告げる。


「そ、そうよね」

「ですわ」

「ん」


 うなずく三人。


「それよりも国に戻りましょう。私たちは魔王を倒した英雄よ」

「えっ? でも魔王は、あいつが――」

「私たちが倒したのよ」


 セラが強い口調で言った。


「きっと称えられるわ。この世界を救った美しき四人の乙女……あんなオッサンにその栄誉を上げる必要はないでしょ」

「……だね」


 マリンが、そして残りの二人も邪な笑みとともにうなずいた。



※ ※ ※


次回から第2章になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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