2 世界の命運をかけた決戦

 右手の甲をもう一度見てみる。

 やはり、『荷物持ち』のジョブ紋章は綺麗に消えていた。


「えっ、これって取れるものなのか……!?」


 驚く俺。


 というか、俺が自分でやっても紋章が取れたりはしなかったぞ。


「間抜けな顔で驚かないでよ、オッサン。最近気づいたのよ。たぶん聖女としての特殊能力ね。ジョブを示す紋章に干渉することができる――」


 セラが長い金髪をかき上げた。


「同レベルの最上級ジョブ――勇者や剣聖、賢者なんかには干渉できないけど、オッサンみたいな下位のジョブなら余裕よ」

「紋章がなくなったってことは、このオッサンはもうあたしたちのパーティの荷物持ちじゃないってことだね」

「なるほど。では女神様に願って、新たな荷物持ちを選んでもらうというのはどうでしょうか?」

「いい……すごくいい……」


 微笑み合う四人。


 どいつもこいつも邪まな笑みを浮かべている。


「どうせならイケメンがいいわね」

「いい男が来たら、早いもの勝ちだからね」

「この肉食系」

「あんたこそ婚約者がいるくせに」

「彼、物足りないのよ。色々と」


 などと、セラとマリンが言い合っている。


「素敵な殿方が荷物持ちに……よいですわね」

「いい……すごくいい……」


 エルザとシーリスはポワンとした顔だ。


 エルザだけはお姫様らしく男から遠ざけられて育ったらしいが、他の三人はそれなりに男性経験がある……と、聞いていたな。


 ……俺はこの年になっても全然女性に縁がないから、馬鹿にされたっけ。


 ――と、そのときだった。


「貴様らか! 近ごろ魔王軍に立ち向かっているという聖女や勇者たちは!」


 前方から黒い炎のようなものが立ちのぼった。


 吹き荒れる、すさまじい魔力。

 こいつは、魔族だ。


 しかもただの魔族じゃない。

 今までに撃破してきた将軍クラスの魔族すら上回るプレッシャー。


 おそらく、こいつは――、


「俺は魔王ディルダイン! 聖女に勇者に剣聖、賢者……か? まとめて始末してやろう!」


 炎の姿をした魔族が朗々と告げた。


「魔王――ついに総大将の登場か」


 しかし、いきなりの魔王出現とは。

 確かにここは魔王城に近い場所ではあるが。


「すでに多くの部下が犠牲になった。これ以上、無駄な犠牲者は出すわけにはいかん」

「意外と部下思いなんだな……」

「王として当然の行動だ!」


 吠えて、黒い炎がはじけ散った。


 その中から、漆黒の巨竜が出現する。


 これが、魔王の本体か――。


 さらに、


「我ら四天王! 魔王様をお守りします!」


 残り火が魔王の周辺四隅に散り、それぞれ魔族へと変化した。


 骸骨騎士。

 巨大な眼球。

 翼を備えた獅子。

 三つの顔と六本の腕を持つ異形。


「魔王と四天王――戦力最上位で一気にこっちを潰す気か……!」

「そういうことだ」


 俺のつぶやきに笑う魔王。


「要するにボスクラスがまとめて出向いてくれたんでしょう? 手間が省けるわね!」


 セラが叫んだ。


「聖女セラの名において――そして神から選ばれし四人の乙女の名において、今こそお前を討つ!」

「もちろんよ!」

「ですわ!」

「ん」


 マリン、エルザ、シーリスがうなずく。


「ふん、かかってくるがいい、四人の乙女たちよ! そして思い知るがいい、この魔王ディルダインと四天王の力を!」


 唐突ながら、いよいよ世界の命運をかけた決戦が始まるようだ――。



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