第11話 今日も音楽を聴く
一人っ子で、両親ともばたらき、内向的な私の子供の頃からの人生の友達は、本と音楽だ。
友達との関係は、年齢や生活環境や女性なら結婚や出産で男性よりも大きく変わり、学生時代からの友人など、人によるが、私には2人もいない。
その点、本と音楽は、私が手離さないかぎりどんな人生を送ろうと、私のそばにいて知恵をかしてくれたり、独りで心細い時に私を励まし、力になってくれる。
特に音楽は、病弱だった母親がよく寝込むため、父親が小さな私が静かになるように、子供のための小さな劇団が主宰しているミュージカルに連れて行った。
幼稚園からそんな日々が続いていたので、母親がいない寂しさもあったがミュージカルは、幼い私の人生の初めての音楽だ。
最初に、記憶にあるのが1人の女の子が話せる動物達(今思えばすごいコミュ力だ、その女の子)と冒険するストーリー。
大人になってから、微妙にオズの魔法使いのパク・・・察して頂きたい。のような物語だったが、子供向けのミュージカルにも関わらず、なんと、女の子がお供の2本足で歩くキツネと恋に落ちる。
小さな劇団ながら、脚本のクオリティー高過ぎ。
冒険の最中、仲間がどんどんゲームのRPGのように脱落していく中、なぜ脱落していくのか幼稚園の私の記憶では、さっぱり微塵もない。
最後に残るのが恋仲のキツネだ。そこに最後の試練としてなぜか人食い花が、出て来て女の子が旅を最後まで続けるなら、キツネを置いていけ、帰ってこなければキツネを食べると言う。
なんか、この話も大宰府の走れメロスのパク・・・察して頂きたい。似ているが、これは友情ではなく、恋だ。
なぜか最後のゴールにつかなければならない女の子は、職務、否、試練とキツネを残す事に苦悩する。ちなみにメロスのように突然、激昂などしない。
そして、幼稚園児にしてすでにサンタクロースを信じていなかった私にキツネは衝撃を与えた。
ミュージカルなので、突然歌いだす。
「信じて~♪愛して~♪待っているよ~♪」
キツネよ!なんて、愛なんだ!人食い花に自分食べられるかもしれないのに!自分を犠牲にしてまで、女の子を守るのか!これが愛か!
衝撃で愛を知り、大号泣する幼稚園児の私の横にいた父親は、ドン引きであった。
子供向けのミュージカルなので、ラストはもちろん女の子は、キツネの元に戻ってきてハッピーエンド。あれ?他の仲間が思い出せない・・・。
とりあえずハッピーエンド。
帰りに、会場の外で劇団の人達がミュージカルの手作りの音楽テープやキーホルダーを売っていた。
普段は、おもちゃや自分が欲しい物も父親が軍隊並みに厳しいために、我慢して欲しがらない子供だったが、私はがんとしてそのグッズ売場から動かないので、さすがに父親も何か欲しいのか?と聞いてきた。
「お嬢ちゃん、何がほしいのかな?」
さっきまで舞台にいた女の子役を演じていた(今思うと20代)が話しかけてきた。
私がテープを指さすと、お姉さんはにっこり笑い、金ずるの、否、お金を払う父親に、にっこり笑って宣伝。
「お父様、今見たミュージカルの歌が全部入っているテープです!お嬢ちゃん、欲しいかな?」
なんですってええ!あの感動がテープ一つで味わえるとは!私は珍しく、何度もうなずいた。
父親が仕方なさそうに値段を聞くとお姉さん、にっこり笑う
「1500円になります♪」
父親が、ぼそりと高いなと呟いたのを覚えているが、私はテープを買ってもらい、家に帰って、眠るまでずっと聞いていたのを覚えている。
それが、小3までテープが壊れるまで聞き倒したので1500円、今思えば安いものだ。
それから、私は邦楽、洋楽、ミュージカル、ロック、ジャズ問わず聞くようになった。
人生が、地獄のように辛い時は、自分の心を守ってくれる音楽を、勇気を出すときは、背中を押してくれる音楽を、悲しい時は、寄りそってくれる音楽を。
なぜなら、どんな音楽にもあのキツネのような愛があるからだ。
だから今日も私は音楽を聴いている。
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