第11話 鉄道省
「スーパー・エクスプレスで行かないの?」って、Naomiは、子供っぽく笑う。
「近いもの」と、リサは、にこにこしながら。
スーパーエクスプレスは、時速300kmで走る
飛行機みたいな特急列車。
でも、100kmかそこらに行くにはちょっともったいない(笑)。
「普通切符しかくれないの?と、れーみぃも
列車を待ちながら。
長い髪が、列車の風に吹かれて。
右手で、それを抑えて。
うん、と頷きながら、リサは
「だって、近いもん。
遠くの人は、寝台列車の券とか
くれるんだって。」と。
「いいなー、夜行列車乗れるんだ。
オリエント急行みたいの?と
」
めぐは喜ぶ。
ふつうのよ、とリサはさすがに、詳しい。
オリエント急行は、豪華に旅を楽しむ列車だけど
さすがに、100kmでは短い。
遠い、国境に近い町からでも
豪華列車を無料で乗れるほど、国鉄も
豊かではないらしい(笑)。
ふつうの、とは言っても
個室寝台にも乗れる切符だそうだ。
電車が近づいてくる。
銀のボディは、お日様の光に輝いている。
ステンレス・スチール。
お台所の流し、みたいなピカピカのボディ。
傷が目立たないように、最初から細かいラインを金属の表面に付けている。
ヘアライン仕上げ、と言うらしいけれど。
いかにも実用的で、機能的な
日常に使う列車のボディに似合う。
そのヘアラインの前に、髪のきれいな
れーみぃが立っていると、
よく似合う。
よく整った、規則的な細かいラインって
幾何学的な、美しさがあるって
めぐも思う。
機能美。
同じように見えるラインも、微細に見ると
でこぼこで、その規則性は
同じ数式で表される。
とか、数学の先生が楽しそうに話したっけ、と
めぐは思う。
細かい傷をヘアライン、なんて言うけど
最初から傷を付けておくと、後から傷つきにくいって
面白い発想。
ひとの心も、それに似ていて
生まれたままの時から、最初に
何かで、少しづつ傷が付いて行って。
それで、大きな傷が付かないようになる。
それを、防衛機制と、旧い研究者は言う。
例えば、ジーグムント・フロイドのような考えの人。
そんなことを、めぐが意識しているわけでもない。
その、生まれてから最初の傷、も
めぐは、魔法で癒してあげる事もできる。
時間を動かす事ができるんだもの。
それで、未来が変わってしまったとしても.......。
誰が困るだろう?
何があったって、傷ついたままでいいってことない。
そんなふうに、友達を思うめぐ。
....でも、正義の見方じゃないから(笑)。
友達だけで精一杯。
それはそれでいい、と思う。
なかよくなれればみんな友達だもの。
土曜なので、電車は割と混んでいた。
めぐたちと同じように、レジャー(笑)の
学生たち。
めいめいに、秋らしい
服装、
なんとなく、落ち着く色合いが増えるのも
面白い。
一様に、女子学生たちは
おしゃべりに余念がなく
それが楽しみだと言うのか
どーでも良い事を話している。(笑)。
幼い子を連れたお母さん、ディズニーランドにに行くのだろうか
子供は、お耳のついた帽子で、にこにこ。
電車は、間もなくドアを閉じて
発車する。
レールの継ぎ目を越える時の
衝撃、それは
いつの時代も変わらない。
リサは[おじいちゃんも、このレールの継ぎ目を
いくつも越えながら
生きて来たんだな、と思う。
そして、リサ自身が
いくつもの、レールの継ぎ目を越えていく。
学校を卒業して
国鉄の試験を受ける、なんて言うのも
継ぎ目のひとつだろう。
きょうは、同じ列車で
4人一緒。
でも、いつかは
ばらばらになるんだな、なんて
リサは、やや感傷的(笑)
秋のせいだろうか。
そういう、四季のリズムも
人間の生理にはあって
それを、circle-year-rhythm、なんて言うけれど
環境に四季があるので
食べ物の多い時期に、繁殖をして
子供を育てて、なんて言う
生態的な、行動の名残である。
なので、日没が早くなる時期には
行動を抑制する傾向に
生理が働くので
やや、淋しい感じになったりする。
秋は、そういう時期だ。
芸術に勤しむのも
よいかもしれないが
そんな理由で、リサは
情緒的であったりする。
「ディズニーランドいくー」と
幼い女の子が、お耳のついた帽子で
そんな事を言う。
母親は「きょうは、おばあちゃんのとこにいくのよ」と
言い聞かせていたりする(笑)。
よほど、その子は
ディズニーランドで楽しい事があったのだろう
「いまいくー」と
窓の外を見ている。
ディズニーランドは、
この列車の終点の、少し手前だ。
なので、幼い記憶は
この列車に乗ると=ディズニーランドを
連想するのだろう。
「かわいいね」と
Naomiは、そんな幼い子を見て言う。
「あんまり、変わらないか!あたしたちも。
ディズニーランド行く、って言ってたもんね、誰か(笑)」などと
Naomiも、楽しい。
でも、ディズニーランド行くんだったら、一日行かないともったいないね、って
誰か言ったんだっけ。
「それで、ビール園行こうって
Naomiが言ったんだっけ」と
れーみぃが言って、みんな、笑顔になった。
ディズニーランド、と言う言葉を聞いて
幼い女の子も、めぐたちのほうをみたり。
関心のある言葉は
その人にとってよく、聞こえたりする。
自分の名前、とかもそうだし。
その子は、ディズニーランドの言葉を
よく覚えているのだろう。
幼い子でも、そういうふうに、言葉を覚えていたりするのは
不思議な事だ。
「ビール園って、未成年も入れるのかなぁ」と、リサは言う。
「たぶん、ダメでしょ」と、Naomi。
「なーんだ、分かってて言ったの」と
めぐ。
和やかな雰囲気で、電車は走る。
行く手の国鉄本社で、何が待っているのか?
まだわからない、そういうちょっと不安感もあったりして。
リサは、すこーしだけ緊張。
でも、そんな時に
友達が一緒なので、心強いな、なんて
思ったりもする。
高校時代の友達って、ずっと
長く友達で続くなんて、よく言うけど
それは、こんなふうに
学生から社会へ進む時期、いろんな思い出を
一緒に過ごすからかな、なんて
リサは思う。
ちょっと困った時、そばにいてくれるだけで
とても心強い。
18歳って言っても、まだまだ甘えていたい。
そういう気持ちを、みんな、共感できているから
一緒に、こうして、付き合ってくれるんだ。
休みだから、好きな事したり
ボーイフレンドとデート、とか
(笑)。
デート?(笑)。
そういえば、みんな、恋人らしき者はいなかったけど(笑)
そういうところも、付き合いがいい理由かしら。
なーんて、リサは微笑む。
すると、めぐは
「リサ、余裕ね」なんて。
微笑みをそんなふうに見る(笑)。
「そうじゃなくって。友達っていいな、って
思ったの。」と
リサは、ホントの気持ちを言った。
「そうよ、今更気づいたの?」なんて
Naomiは、ちょっと睨むふりして微笑む。
すっきり美人顔で、そうすると
結構カッコイイ(笑)。
ふと、めぐは
さっきの「ディズニーランドいくー」の
女の子をみると
別に、駄々をこねるでもなく
椅子の上に立って、景色を眺めている。
「ディズニーランドいくー」とは言ってないけど。
海の景色の向こうに、ディズニーランドが見えるのだろうか。
その子には見えるのかもしれない。
想いってそういうもので
空間を飛び越えて、楽しい景色が見える事も
あるのかもしれない。
お母さんは、別に諌めるでもなく
椅子の上で眺める景色に飽きるまで
立たせている(笑)。
もちろん、靴は脱がせているけれど。
優しい、お母さんだけど
おばあちゃんの家に行く予定を、変えて
ディズニーランドに行くような、そういう
母親ではないあたりに
リサは、好感を持った。
「おばあちゃん、待ってるよ、会うの
楽しみに」と
言って、この、お嬢ちゃんの
気持ちを
変えていた。
もちろん、この子が
自分勝手な時期だったらダメかもしれない説得だけど(笑)。
おばあちゃんが、自分を好んで
待ってくれている、と
そういう結び付きを
子供心にも覚えると
むやみに、子供とは言え
人の心を反古にはしないものだ。
子供だからこそ、好きな気持ちには敏感なのかもしれない。
そんなふうに、諦める、と言う事を
少しずつ覚える事は
例えば、この電車の車体、
ステンレスのヘアライン仕上げのように
細かい傷をあらかじめ付けて、
大きな傷をつきにくくする、なんて事に
似ていたりする。
いつも、諦める事を少しずつ覚えて
それに慣れると
そんなに、我が儘にはならないものだし
諦める事が、カッコイイと
思うようになったりもする(笑)。
そうすると。駄々っ子は
みっともないと
感じる子になるのだし。
ーーーと、リサが
思った訳でもない。
(笑)
でも、リサは
従順な子供だったし
お姉さんだし。
機関車乗りのおじいちゃんと一緒に住んでると
勤務のせいで、昼間、寝ているおじいちゃんを起こさないように、って
静かにしていたり、
友達がヴァケーションに行ってる時も
いけなかったり、と
そういうふうに
諦める事に慣れる子供だったりもして。
それを美徳に思っていたから、
この、「ディズニーランドいくー、」の
子が、駄々っ子でないところに
共感を感じて、愛らしい、とも思った。
......反対に、ディズニーランドに連れて行ってあげたくなるけど(笑)
気持ちってそういうものだ。
駄々をこねられると、意地でも
連れて行きたくなくなる(笑)。
気持ちってそういうものだな、と
リサは、「そういう気持ちって、車掌さんになったら大事かな」なんて
真面目に思ったり(笑)。
電車は、海沿いのカーブを
ゆっくり走っているみたいに
感じられる。
実際の速度は時速80kmくらいで
かなり早いのだけれども
電車は元々早いので
減速すると、ゆっくりに感じる。
乗っていると感じないけれど
地球だって、時速1700kmで回るのだけど
乗っていると、相対で0km/hだ。
感覚は、相対的なものである。
また、時間感覚も
物理的な原基と比較しなければ....。
多分に相対的で、だから
人は焦ったりする。
そんな時、例えば機関車乗りは
物理的な原基と比較する。
速度から、進むべき距離を割り出して
現在の地点を比較し、到達点までの距離から
速度を増減するだけだ。
そうすれば、焦ることはない。
よく、リサのおじいちゃんは
そうしていた。
普段の生活でも。
それは、職業的な感受性であるけれど
理論的に正しい行動である。
そんな風に、時間だって
相対的に感じてるふだんと、
リサのおじいちゃんみたいに、絶対的な原基で
動いていた人と。
ふたとおりある。
その絶対にあわせるのは結構ストレスなので
それで、国鉄職員は
退職すると、健康を害する人が多い。
(筆者のおじいちゃんもそうだった。笑)。
規則的な3次元時間軸に
合わせて行動するのは、結構面倒(笑)。
物には質量があるから、加速、減速が
等しく規則的にならないから。
なので、結構列車の時刻はいい加減だったりするのは
南の方の国。
その方が、自然なんだって考え。
普通列車なので、駅にひとつひとつ止まりながら
のんびりと走る。
「やっぱ、スーパーエクスプレスに
乗り換えようよ」と
れーみぃは、後々ハイウェイパトロールを
白バイでする割に
スピードマニアだ(笑)。
「乗れるよ、特急券買えば」ってリサは
さっぱりと言う。
Naomiはニコニコ。美人顔でそうすると
なんだか、あどけなく見えて、とってもかわいい。
「お客様にその言葉遣いはいけませんよ、リサ車掌」と
真面目な顔のふりして、ジョーク。
「はい、教官」と
めぐはふざける。
「なんであんたが言うの?」と
リサも楽しそう。
「言ってみたかったの。そういうの。
図書館ってそういう制服もないし。
なんか、カッコイイなー、って。」と
めぐは、映画で見た
飛行機のパイロットの話とか、を
想い起こして。
なーるほど。とれーみぃはにこにこ。
制服って、なんかいいもんね。と。
そういえば、あたしたちの学校、制服ないし。と
Naomi。
「なんで、ないのかしら?」と
リサも言うけど
「毎日だと、洗濯大変だし、夏なんか臭いそうだし」と、めぐ。
いやーぁ主婦っぽい、と
みんなが笑うので
めぐも恥ずかしくなった。
「でも、ホント、そうだよね。
制服ない学校でよかった」と
れーみぃも言う。
毎日お洗濯だと、お母さんが大変だし。
なーんて、リサは思う。
4人掛けの向かい合わせシートに
楽しそうに
しているめぐ、リサ、れーみぃ、Naomi。
座席は結構埋まっているけど、座れないほどでもなかった。
土曜日の午前10時くらいと言うと、
遊びに行くひとは、出掛けた後で
割と、空いている時間帯だったりして。
そのへんを考えるあたりは、リサの
鉄道職員の血統、だろうか(笑)。
でも、座席に座らないで
ドアのところで立っている幼い女の子、と
お母さんがいる。
なんとなく、めぐはそれを見ていると
かわいいリュックサックを、その女の子は
床に投げつける。
お母さんは、それを拾って
自分で背負う。
そうすると、その女の子は、
お母さんから
かわいいリュックサックを奪って
また、床に投げつける。
「なにやってんだろ」と
めぐはそれを見て。
リサは「ああ、反抗期じゃない?」なんて
平然と言うので
「経験ありそー」なんて、れーみぃはジョーク(笑)。
あるわけないわよ、と
リサはにこにこ。
「弟がね、いたから」と
リサが言う。
「かわいいミシェルにも反抗期はあったのね」と
Naomi。
「スーパーエクスプレスって
特急券高いの?」
なんて、れーみぃは言う。
「もう、着いちゃうよ」って
リサは言う(笑)
でも、100kmくらいだと
普通切符と同じくらいの値段。だと。
リサはさすがに詳しい(笑)。
「バイト一日分くらいかな、往復すると」って
めぐは思う。
けっこう、儲かるんだな(笑)なんて
思ったりもするけど。
そのあたりは主婦っぽい感覚かな(笑)なんて
誰も言わないけど、めぐは
それを気にして、頬が
赤くなった(笑)。
終点。
「大きな駅だねー」と
めぐは驚く。
「ほんと」と
リサも笑顔になった。
首都だもの、それはそうかもしれない。
電車のホームが二階建て、
地下も3階建て。
「人がこんなにいっぱい!」と
のどかな山里に住んでいる、naomiは
見た目都会的だけど、言う事は素朴(笑)。
そういうとこ、かわいいって
なんとなくめぐも思う(笑)。
女子高でなかったら、きっと、
憧れのマドンナ、とかになるんだろうけど(笑)。
男の子たちの。
列車は、終点。
だけど、レールはずっと続いてる。
「どこまで行くんだろ、このレール」と
めぐは、ひとりごとで言うと
「北の国境までよ」と
リサ。
2000kmあるの、と
さすがに、機関車乗りの孫だ(笑)。
時刻表なども、家にたぶん
普通にあるのだろうから
知識も、自然に覚えるんだろうな、なんて
めぐは思った。
「国鉄本社ってどこなの?」と
れーみぃは、電車を降りながら
そんな事を言う。
さっき、「ディズニーランドいくー」と
言ってたかわいい子の
お耳つき帽子が、ひょこひょこ歩いて行くのが見える。
おばあちゃんのお家に行くのかな?
どこだろ?
なんて、思いながら。
「となりの駅よ。鉄道発祥の地、なんだって」と
リサは、観光バスガイドも兼ねてか(笑)。
「じゃ、乗り換えなんだ。乗り越したの?」と
めぐは言う。
リサは首を振って、「線路が違うの。」と。
なんだか難しいなぁ、と
れーみぃは、ふくよかな頬を綻ばせる。
白い頬に、紅い唇で
笑顔になると、生きているお花みたいだと
めぐは思う。
あんなふうに、かわいい子に
なれたらステキ、
なんて(笑)。
国鉄本社は、厳めしい花崗岩の入口で
歴史を感じさせる。
けれども、入口には
新しい会社みたいに
受付の、明るい笑顔の
お姉さんが居て
場違いな雰囲気の
カラフルな女子高生4人を
優しく迎える。
リサが、名前を言うと
「はい、それは、2階の右手に
総務部がございますので、そちらで願書を
お受け取り下さい。
と。
にこやかで丁重だけれども
願書、とか
聞くと
緊張しちゃうリサ、だったり。
4人でどやどや行く訳にも行かないから(笑)
めぐたち3人は、しばらく待ってる事にした。
とはいえ、古いビルなので
ロビーがある訳でもなくて。
どうしようか、と迷ってると
受付の
お姉さん「6階の社員食堂で、お茶はいかがですか」と。
「入っていいんですか?」と
れーみぃはにこにこ。
はい、もちろん。
と、お姉さんはにこにこと
エレベーターの位置を教えてくれる。
楽しそうなめぐたちと、エレベーターで別れる時
ちょっと、心細そうなリサ。
Naomiは、エレベーターを一緒に下りる。
「外で、待っててやるよ」と
乱暴だけど、暖かい気遣い。
じゃ、あたしも、って
めぐ、と、れーみぃ。
「騒がしくしないでね」と
Naomi(笑)。
やっぱり、一緒がいいよね。
さらに、厳めしい感じの
木造の扉。
閉じられているので、余計怖い(笑)。
ノックして、扉を開くリサ。
試験じゃないけど、なんとなく緊張(笑)。
3人、背後で
小声で、がんばれー、って口々に(笑)。
扉を後ろ手で閉じると
試験じゃないから、普通の事務室で
賑やかなので
リサの緊張は解ける。
声を掛けるまでもなく、事務のお姉さんが
朗らかに「ああ、願書の人ね」と
そこで名前を言うと、聞かされた言葉は意外な事だった。
「お祖父様のご希望ですね。」と
事務の受付さんは、リサに
にこやかに言う。
リサは、何も知らない。
受付さんは、続ける。
「退職なさる前に、手続きを済まされておりましたので
特待生として、国鉄にお迎え致したいと....
人事が申しております。
試験は行いますが、既に優待が決定しております。」
つまり、スポーツ選手みたいな感じで(笑)。
名機関士だったおじいちゃんの孫なら、無条件で受け入れると
そういうお話らしい。
それで、国鉄職員の身分のまま、大学へ進学。
もちろん、大学の試験の方は落ちるかもしれないが(笑)と
そういう話。
「おじいちゃんが『国鉄に来い』って....。こういう事だったの。」と
リサは、はやとちりを悔やんだ。
それで、リサが「レールに敷かれるのは嫌」と
言ったばかりに。
おじいちゃんは、その言葉を曲解してしまった。
「わたし、バカだったな。」と.....。
...でも、おじいちゃんも
もう少し何か、言ってくれたらな(笑)とも思ったけど。
願書を貰って来て、Naomi、めぐ、れーみぃに
その話をすると....。
「よかったね。」
「いいじゃん。」
「おめでと。内定1号。」と
めいめいにいろいろ。
リサは、実感する。
おじいちゃんは、リサに失望してはいなかったんだ。
それだったら、特待生に推薦なんて、しない。
「電話掛けて来なくても、良かったんだって。特別選抜じゃなくて
特待生だから。
いずれ、連絡が来たんだって。」
おじいちゃんの存在の大きさを、リサは実感する。
国鉄、なんて言う大きな組織に、これだけ名が通っているなんて
想像もしていなかった。
それだけに、後継ぎとしての重圧も
感じないでもない....けれど。
それで、おじいちゃんは
「レールに乗りたくない」と言う気持を
理解したのかもしれない。
「でも、よかったね、おじいちゃんの本心がわかって。」と
めぐは言った。
魔法使わなくても、心は通じてたんだ。
それは、おじいちゃんの魔法、かも。なんて
めぐは内心思った。
「さ、じゃ、国鉄パーラーでなんか飲もうか!」と
リサが言って。
「おー。」
エレベータに乗って。
ちょっと騒がしくなってしまうのは、致し方ないけど
お祝いだもん。
なんか、そういえば.....と
めぐは、思い出せない。
消してしまった未来の記憶。
もうひとつの未来で、確か
路面電車の運転が、上手く行かなくって
励ましに行った時。
警察カフェ、って言って盛り上がった(笑)。
似たような事は、それなりに起る。
でも、もう...。あの、3年後は
訪れない。
そのこと自体も、めぐは忘れている。
こんなのも既視感、になるのだろうか(笑)
めぐは思う。
未来を、みんな変えて生きているけど
それに気づかないのは、未来に行った事が
ないから。
当たり前(笑)。
たまたま、それを知っていためぐだから
そう気づくのだけど。
つまり、超紐0次元モデル仮説に基づく
11次元隣接宇宙の個数、10の500乗、
選ばれなかった選択肢が、その個数だけある。
そう
、想像するのも楽しそう。
何かの拍子に、ひょい、と
入れ替わると
違った未来があるのかな?
なんて空想すると
とっても、未来は楽しそうだ。
旧い、国鉄本社のエレベーターは
ゆっくりと登り
6階に着くと、かん、と
鐘の音がして。
やっと上ってきた、と
エレベーターが言っているみたいだと
めぐは思う。
「着いたねー」れーみぃが
ゆっくりと開く重厚なエレベーターの扉、
各階の扉とは二重になっていて
合間に、鋳物のアコーディオン扉がついていて。
以前は手動開閉だったのだろう、その
把手は真鍮で。
人が触れたところが、光り輝いていた。
その、鋳物と真鍮の対比は
なんとなく、機械的で
蒸気機関車のスロットルとリバーギャの
ようだ、と
リサは、それを見て
おじいちゃんの機関車を思い出す。
ずっと昔、まだ
リサが幼い頃の記憶だけど。
黒い、大きな機関車は
幼いリサにとって、少し怖いくらい
立派なものだった。でも
おじいちゃんは、誇らしげに
機関車に乗っていて。
その様子は、頼もしげに
リサには思えた。
父がなぜ、機関車乗りにならずに
自動車エンジニアになったのだろう、などと
不思議に思ったものだった。
自動車より、機関車の方がカッコイイ。
そんな
ふうに、幼いリサには思えて。
他愛ない記憶だけど。
と、リサはそんな自嘲を含め
エレベーターの扉、隙間が大きくて
下見ると少し怖い(笑)のだけど。
開いた扉から、6階の
フロアへ。
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