第10話 進学


めぐは、リサの身に掛かった不運を

夏休みの終わりに聞いて。



悩み事を、聞いてあげていた。



最初は、リサも「おじいちゃんもなんか、困っちゃうのよー」なんて

ユーモラスに言っていたので

めぐは、気楽に聞いていた。




.....もちろん、めぐは

この時、未来、3年後に旅した事を

忘れている(笑)。



自分で、記憶を消したのだから。



なので、リサに「後継ぎの話は、おじいちゃんは

怒ってないよ」なんて

言える筈もない。





もちろん、知っていたとしても

リサに言ったところで、信じてくれる

訳もないのだが。







そして、もし、

この時、めぐが魔法を使って

リサの悩みを解決してしまうと

3年後にタイムスリップする事も

なくなる。



未来が変わってしまう。と、そこが

多重次元宇宙になってしまう。




あの時、3年後に

Naomiとれーみぃ、リサと

起きた事件も、ミシェルの少年っぽい悩みも


起こらない事になる。



その時の空間は、異空間になるのだ。




ひょっとして、ミシェルが

いる時空間と、いない時空間も



そんな理由で、誰か、魔法使いが

過去から、未来を変えているのかもしれない

けれど。




そんな理由で、時空間は多重する。










秋を迎え、めぐは

リサのおじいちゃんの訃報を知る。



それは、突然に起こるもので




学校を早退したリサを気遣って

めぐも、早退。


後を追って、

めぐの見た光景は、めぐ自身にも

見覚えのある、淋しいひとの姿。






めぐも、つい、もらい泣きしてしまう。


めぐ自身、おじいちゃんが好きで


リサの、おじいちゃんへの気持ちが

よく分かるから。


共感して、ふたり、泣いた。





白い病院の屋上で。





リサは、大学へ行くのを止めて

国鉄に行く、と言う。




「だって、おじいちゃんが

生きてたら、そうして

欲しかったと思う。」と

リサは言う。






めぐは、それを聞いて。

抱擁しながら、泣きながら

それを語る友達の、温もりを感じながら



何か、記憶の片隅に引っ掛かるものを感じた。





ソレハ、

チガウノデハ

....



と言うような。



魔法使いの血統。



消してしまった未来の記憶は別にして


めぐには、予知の能力も少し、あったらしい。



予感、のようなものだけど。





魔法を捨て去った訳じゃない。

だから......。




その、リサの窮地になら

魔法を使ってもいいと

めぐは、思う。




そうすると、未来が変わってしまうかも知れないけれど。



その事は、めぐは忘れている。


タイムスリップして垣間見た未来は、

記憶から消したから。







屋上、涼しい風が吹きわたる。

秋が訪れたのだ、と

抱擁したままのふたりに、時を告げる。



時。

それはふつう、幾何学的に均一。


だが、魔法使いは、その時間量子を

操る事ができたりする。

めぐは、封印した魔法を解除する。


そして、親友リサの悩みを救うため

白昼夢に彼女を誘った。



抱擁したまま。




もちろん、こちら時間では

ほんの一瞬の事。




よく、我を忘れると言うけれど

そんな瞬間、ひょっとして

魔法使いが誘っているかもしれなかったりする。




のかな(笑)。





めぐは、リサの記憶の中で

時間を少し、遡って。




その、おじいちゃんとの行き違いの

夏休みの日に、彼女の記憶を巻き戻した。


(巻き戻し法は、精神医学的にも有効な

心の治療法のひとつである。)





おじいちゃんは、「国鉄に来ないか」とは

言っている。


けれど、それは

おじいちゃんの空想で、現実の

リサの意思は理解していない。



当然だけれども、リサの気持ちは

おじいちゃんの空想では、わからない。



リサのイメージでも、おじいちゃんの気持ちまでは


わからない。




それは、お互いの心の中にある

記憶を演算した結果であるので




それを、共有すればいいだけだ。




言葉で話し合うのは、ふつう。



魔法だったら、それをイメージでつなぐ。




コンピュータで例えれば

話し合うのは、言語で照合する事。




もともとの記憶にあるデータで

照合するのは、0と1の数値比較である。


理論演算。



間違いはほとんど起きない。




誤解、は有り得ないのは

同じ気持ちの家族だから。





おじいちゃんのは、気持ちの焦りからくる

はやとちり。




リサもまた、おじいちゃんの気持ちを

空想できなかった


はやとちり。



お互い、似ているのは

やっぱり、血統だ(笑)。



それを、互いに理解できたと

リサの心は、納得する。





言葉でいろいろ話さなくても

記憶データ自体の演算である。

すっきりと納得できる。





ーーーーー

人間の記憶は

脳、神経細胞の興奮が起こす

電気信号であるから、


フォーマットを解析すれば、似た事は

現在の医学でも可能であり


聴力を失った人や、視力を失った人に

電気信号でそれらを補完する研究が、現在進んでいるのは

事実であったりもする。


記憶について研究が行われないのは

需要が無いからで、技術的には可能である

と思われる。



倫理の問題はあるが。


ーーーーーー






リサは、一瞬の微睡みで

それを理解した。





抱擁を解く、めぐとリサ。





「めぐ。今、わたし。なんか。すっきりした。

おじいちゃんが、わたしのところに来たみたい。」と、リサ。




よく、夢枕、なんて言うけれど。

それは、こんなふうに起こるのかもしれない。






リサは、すっきりとした顔で

「泣いたら、なんか、すっきりした。

おじいちゃんは、わたしに

後継ぎを願ってたんじゃない。

ただ、少し焦ってたんだ。

先行きを心配して。


」と、リサは

自分の心を呪縛していた思い込みから

自分を解放した。





思い詰めていた表情が、蘇る。





「頑張る、あたし。どんな事があっても」と

リサは、涙を越えて。



明日への一歩を踏み出す。


無くした過去は、振り返らず。








リサが、そう決意したので

めぐも、いろいろと助けてあげようとした。



「できれば、大学にいきたいな。」と


リサは言う。



それから、国鉄に行ったほうが

偉くなれるから。と


おじいちゃんも、そう言っていた。


なのに、退職寸前に

突然、気が変わったりするのは


やっぱり、そういう季節なのだろう。




「でも、お父さんも病気になってしまったし、ミシェルの進学もあるから。」と


リサは、やっぱり進学を諦めようかと考えた。





めぐは、図書館のアルバイトをしながら

司書資格を取るつもりだったし


カレッジに行った子が、奨学金を貰った、と言う

話も聞いてたので





「ねえ、リサ、奨学金貰えば?」と



言って見る。




学校でも、そろそろ進路の決定の時期なので

面談の時、先生にめぐは聞いて見る。





「先生!奨学金って貰えますか?」



おばあちゃん先生は、いきなり、なので

面食らう(笑)。






面談をしている、放課後の教室は

静か。




だーれもいない。


そこに、めぐの声が響いて(笑)。




先生の丸眼鏡に、大きな瞳が見開かれて(笑)。




でも、柔和に微笑み、先生は



「貰えるわよ。でも、あなたのお家、そんなに困ってたのかしら。」どちらかと言うと、裕福なほうの

めぐの家だったから。



そういう人には、貰えない事になっている。





先生は、なお続ける。「お父さんが公務員だったり、公共事業に勤めてると、会社から借りれるわよ。

公務員共済、と言うのがあって。


先生のお父さんも教師だったから。


それで、大学に言ったの。」と、にこにこ。





「それだ!」めぐは叫ぶので

また、先生がどっきり(笑)。





「先生、ありがとうございます!」と

めぐはぺこりと頭を下げて。



面談の途中なのに、教室を飛び出して行った(笑)。




あらあら......と、先生は

にこにこしながら。



「リサちゃんの事かしら。仲良しっていいわね。」と


めぐの飛び出して行った後を瞳で追った。








廊下を駆けていって、めぐは



「リサー、どこぉ?」と


あちこち探し回った。




テニスコートじゃない?と

れーみぃが言う。




いつもの、ベレー帽に長い髪。




でも、どしたの?と


れーみぃは、きょとん。





「いい事、いい事!」と

めぐは、テニスコートへと駆けて行った。










テニスコートでリサは

ボールを拾いながら。


いろいろ考えていた。




結局、お金が要る時に

子供の自分には、どうしようもない事もあったりする。



路面電車も、いいけどね。




チャレンジできるなら、できるところまで。




そういう気持ちはある。







「リサー、リサぁ!」と

めぐは、リサの姿を見つけて


全速力。


何も、急がなくてもいいんだけど(笑)。




「あのね、おじいちゃんとこで

奨学金借りれるって。先生が。」と、めぐは

朗報を告げた。



永年勤続のおじいちゃんなので。







「本当?」リサは、喜ぶ。



それは、めぐも喜ぶ。


魔法もなにも使わないけど、友情って、ある種魔法のようだ。




こんなに、喜んで貰えるんだもの。

めぐは、そんなふうに。





リサに、生き生きとした笑顔が戻る。



めぐも、笑顔になれる。自然に。




不思議だけれども、赤ちゃんの頃から

笑顔って、嬉しくて


いつも、笑顔でいたいと思ったり。

誰かを笑顔にしたいと思ったり。



表情のひとつにすぎないのに


なんで、笑顔って惹かれるのかな、と

めぐは思う。






その、笑顔のふたりに



さっき、校舎で会った


Naomiと、れーみぃも

テニスコートに追い掛けてきて。



「なんか、いーことあったのぉ」とか(笑)。




「リサが、大学行けるの。」と、めぐが言うと


リサは「試験に受かればね(笑)」と

ユーモアたっぷり。




みんな、笑う。


Naomiも、れーみぃも、いい笑顔。






リサのおじいちゃんが


天国へいってしまった事は

みんな知ってたから


て。






「そんな事、あったんだ。」



と、Naomiは驚いて。




それで、ふと気づくれーみぃ。



「警察学校みたいな、鉄道学校、ってないの?

そこなら、月謝安いとか。」お巡りさんになるつもりのれーみぃ。



面白い発想(笑)。








早速、みんなで図書室へ行って。


進学ガイド、なんて言う


電話帳みたいな本を

みんなで見て。





そこには。





ー企業の中には、学習支援制度のあるところもありますー





の、一文。





「ほらほら、これこれ。」と、れーみぃ。






警察みたいに、独自の教育が必要なところは

警察学校があったり。




自動車会社には、自動車大学が。




国鉄には、鉄道学校も。






「すごいね、れーみぃ。ビンゴ!」と


Naomiはれーみぃの感覚を讃えた。






めぐは、別の一文を見つける。






国鉄や、行政、専売、電話とかの

国有企業、ほか、大きな企業には


就職後、大学に進めるところもあります。




社員に教養を付ける意図で



通常、数年程度勤務すれば

奨学金の返済義務はない場合が多い。





「これ、いいんじゃない?」と

めぐは、大きな声になったので(笑)。

「静かにしないと、図書委員めぐさん」と


Naomiはクールに言うので


あ、いけない、とめぐは口を抑えたので



みんなで笑い、

尚更、迷惑


になってしまったり(笑)。




でも、ちょっとくらいいいよね。


友達の大事な事だもん。







屋上に出て、国鉄に電話を掛けてみた。




厳めしいおじさんが電話に出るのかと

めぐは緊張して。




「あ、あの、すみません」と

電話口で恐縮。




でも、広報のお姉さんは

柔和で綺麗な、優しい声。





「はい、その制度は

一般採用枠とは別の

特別選抜試験が行われます。




合格なさった方は、大学で

学習を進める事ができます」





なんと、学校に通いながら給料も

貰える、との事に

めぐは仰天した(笑)。






調べてみるもんだ。






元々、国家公務員の

制度として有ったもので



国鉄職員の能力向上の為に、準用した、との事。




本来は、鉄道技術の学校とか

線路建築の技術を付ける為の

制度、だとか。



でも今は、それだけに留まっていない、との事。



「聞いてみるもんだねぇ」と、Naomiは

お姉さんっぽい口調で。


「おばさんっぽい」と、リサは笑う。


リサに笑顔が戻ってきたのは、Naomiも、れーみぃも


そして、めぐも嬉しい。




おじいちゃんがいなくなってから、思いつめてたもん。

そう、めぐは思い、そして


ともだちのために魔法を使ったこと、それで

未来を変えてしまう事に、ためらいはなかった。





ーーー結構、危ない選択なのだけど(笑)。




それで、多重次元宇宙、10の500乗あるうちのひとつと

共有結合、ドメイン・メソッドを作ったのだけど。


そういう事が増えると、世の中が複雑になってしまう。





でも、他に方法は無かった。





「正しい選択」が、「納得する選択」とは限らない。

魔法使いめぐとしては。

















「でも、特別選抜試験ってなんだろうね」と、れーみぃ。



「先生も教えてくれなかったし。」と、リサ。




一般入試の他に、そういうものがあるなら

学校から、国鉄への推薦枠を使わなくて済むから

クラスメートの推薦枠が減る心配はないから


リサとしては有難い話。




「まあ、試験難しいんだろね。」と.....。




願書は、国鉄本社へ直接用紙を取りに行って

自分で出すのだそうだ。




この町から、国鉄本社がある首都までは

列車で100kmくらい。


そんなに遠くはないから、次の土曜にでも

みんなで行って来よう、なんて話になって。



そうなると、遊び気分の4人(笑)。



「ディズニーランド行こうよ」とか。

「シーサイドリゾート」とか。


「ビール園」とか(これこれ笑)。



ビール園、って言ったのはNaomiで


「いやーぁ、オヤジぎゃーるー」って、れーみぃは笑う。


みんなも笑った。




(未成年の飲酒はいけません。作者。笑)。



....ま、ノンアルコールもあるか。



ジンギスカンで黒ビール、なんてのも

ロシアの方ならありそう。





次の土曜も、いいお天気。


めぐと、仲良し4人で

ディズニーランド(笑)じゃなくて。


リサの、入学願書を取りに

国鉄本社まで小旅行。だった。


「郵便で送ってくれればいいのにね」と

郵便屋さんが好きな、Naomiは、そんなふうに、言う。




ここは、駅。路面電車の終点の、坂の麓にある


国鉄の駅。



改札口は、駅職員さんが

切符をみるための、ステンレスのラッチが作られていて。



待合室はその右手。





左手に、切符窓口と



昔ながらの作り。




リサは、何やら紙片を窓口に出して、切符を

貰って来た。




「なにそれ?」と


めぐが尋ねると



「切符引き替え券なの。国鉄本社に用事がある、って言うとね、

国民の為だから、って


切符貰えるの。」




「そんなの知らなかった。」と

れーみぃはびっくり。




めぐも、驚く。



「フランスとか、イギリスもそうなのかしら」と、リサに尋ねてみると




「たぶん、そうなんじゃない?


郵便だって、郵便局への願書はそうでしょ?」と



Naomiに、リサは聞く。




「うん、確かそうだった。」と。




郵便局へ願書を取りに行くと、スタンプを押してくれて。



その紙を封筒にして送るんだった。





「それもすごいけど、列車がただ、なんて

すごいねー。


わたしたちのも?」と、れーみぃはにこにこ。




「さすがに、そこまではねぇ(笑)」



と、リサ。


付き添いは家族だけらしい。




「そっかー、残念。」と


めぐはにこにこ。苦笑い(笑)。




「めぐは、いいじゃない。

ミシェルと結婚すれば、家族!」と

Naomiは楽しそう。





めぐは、恥ずかしくなった。



「へんな事言わないでよ」と。





「あれ?ミシェルって、リサの弟の?」と

Naomi。




れーみぃは「そうそう。めぐに恋しちゃってるんだって。」と



楽しそう、うらやましい、って感じで。




めぐは、その話題を打ち消す(笑)



「そういえば、郵便局も、国鉄も、

なんで願書を取りに来させるの?」と

さっきの疑問。




「それが、最初の試験なんだって。


事前面接、みたいなものね。


へんな人には渡さない、って事らしい。


」と、リサ。続けて、




「国鉄も、郵便局も信用が大事なところだから。


親戚に国鉄職員がいたりすると、入りやすいとか」と




面白い事を言った。




「縁故か。まあ、それもあるかな。

銀行とかもそうだって。

」と、Naomi。




実際、お金を扱ったり、人を載せたり。


そういうところは、信用が一番で



学校の勉強、成績よりも人柄とか、

欠席が少ないか、とか。




やっぱり、社内に親戚が多い人のほうが

会社も安心らしい。





「なーるほどぉ」と、めぐが頷く。




「あ、そろそろ列車くるよ」と




リサは、上りの普通電車が来るのを示す

時刻表示のメッセージボード、掲示板を示した。

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