第285話 36列車、熊本、定発!

貨物列車でも、時々は

旅客ホームに停まる事もある。


大抵は、短い停車時間で・・・・

旅客列車が居ない時間、などである。


この時もそうで・・・。ほんの少しの間だった。


真由美ちゃんは、お兄ちゃんの機関車のそばで

嬉しそう。


お兄ちゃんも、にこにこ。

機関車の運転席から、手を出して。

「真由美、ちゃんと朝起きてるかー。」



真由美ちゃんは「うん!」


「寝小便してないか?」と、お兄ちゃんはちょっと、からかう。




「お兄ちゃん!」と、真由美ちゃんはちょっと、怒る。

その表情も楽しそうで、可愛らしい。


お兄ちゃんは、ははは、と笑い。


「よく、おしめを変えてあげたんですよ」と。にこにこ。


「お兄ちゃんったら!」と、真由美ちゃんは機関車の鉄板を叩く。



「おっとっと、機関車を壊すなよ」と、お兄ちゃん。にこにこ。



そのうち・・・無線が入り。「36列車機関士、こちら指令」


お兄ちゃんは、無線のマイクを取り「36列車機関士です、どうぞ」


「信号現示、発車よし」と、指令。


「36列車機関士、了解」と。


出発信号機が青に変わる。



「みなさん、よい旅を」と、お兄ちゃんは笑顔で。



白い手袋を嵌めて、左手、指二本。


信号、よし!。


ホーム安全、よし!


と、ホーム先端のモニター画像を見ている。

近年ではカメラが付いており、危険防止に役立っている。



機関車単弁、と言う機関車ブレーキを掛けたまま

編成直通ブレーキ弁を緩める。



しゅー・・・と、空気が抜ける音がして

編成の前の方から、貨車が、ゆらり・・と、揺れる。

ブレーキが緩み始めたのだ。



機関士は、機関車単弁を、ノッチ1に落とし

MCを1ノッチ、進める。



出発、進行!


熊本、定発!


と、指差呼称。



機関車が、ゆらり、と動き出す。

ブレーキが機関車だけに掛かっているので、静かに。


連結器ばねが、編成の前の方から伸び始めて


がちゃり、がちゃり・・・・と、編成後ろまで。

僅かな隙間を、伸ばすように止めておいたので

衝撃無く、列車を進める事が出来る。



「では」と、お兄ちゃんは

皆に挨拶。



機関車単弁を解放、MCを2まで進める。


貨物列車なので、無闇に電流を流してもモータが過熱するだけだ。

その辺りは経験を要するが・・・要は、機関車への愛である。


インバータ機のような、自動制御よりも

実は、愛着の沸く交流、誘導電動機である。


労わる気持があれば、壊す事は、ない。



左手を上げて、挨拶しながら・・・ED76 122は

ぐいぐいと進んでいく。


空気笛を、 ぽ、と鳴らして。



場内進行・・・・制限、45!と、

信号と標識を確認、指差呼称。



ホーム上にいる友里絵は「かーっこいいね!」


真由美ちゃんは「はい」、と、にこにこ。



由香は「いいなぁ。お兄ちゃんがいて」

弟はいるが、お兄ちゃんはいない。



友里絵は「うちの貸したげる」

と、にっこり。



由香「いいよ、あれは」と、ふざける。


友里絵「まーね。あたしもいーらないっと。真由美ちゃんのおにーちゃんがいい」


真由美ちゃんは「じゃ、友里絵さんがお嫁さんになってください」


菜由は「かっこいいもんね。ホントに白バイ野郎みたい。爽やかで」

と、編成の行く末を、掌で陽射しを抑えて、見ている。


コンテナ列車は、がたん、がたん・・・と、速度を上げて。


やがて、ホームから去った。




愛紗は「いっちゃったね」



真由美ちゃん「はい。いっちゃいましたね」

でも、淋しげではない。


会えて、嬉しかったのだろう。




友里絵は「いいねぇ」と、にこにこ。レールを目で追って。


由香「タマちゃんはどうした?」と、ちょっとからかう。



友里絵「それはそれ、これはこれ」



みんなも笑う。「そんなのアリ?」




鹿児島線ホームから、新幹線口へとみんなは移動した。


友里絵が「くまモンちゃんに会いたい」と・・・・来るときから言ってたので。




在来改札を、周遊券で出る。

磁気カード改札なので、自動で出られる事に、ちょっと驚く友里絵。


「近代的だ」と、びっくり。



由香は「SUICA使ってたじゃん」と、普段の暮らしで使ってるので。



友里絵は「なんとなく」



真由美ちゃんは職員証を見せて、ご挨拶。


改札さんはにっこり。「ご苦労様です」



くまモンちゃんは、2mくらいの大きなぬいぐるみで。

新幹線口の前に、立っていた。



きょうは水曜なので、子供もいない。


「くまモンちゃーん」と、友里絵は駆けて行って。

抱きついた。


勢いがあったので、くまモンちゃん、転ぶ。



喫茶店に居た人たちが、ははは・・・と笑う。




由香「すみません・・」と、くまモンちゃんを起こして。

前にある看板も。


友里絵は「えへへ・・・ゴメン」


由香は「アホ」と、にこにこ。友里絵の頭を撫でた。



真由美ちゃんもびっくり。


「わたしも抱きつきたいと思ったけど」(^^;




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