第248話 spring high
と、思うと、友里絵は
半音階の多い、特徴的なベース・パターンを左手で弾いた。
真由美ちゃんは「かっこいいです!」と
2回、繰り返してから・・・
右手で、ふんわりとメロディを弾く。
スティーヴィー・ワンダー&ラムゼイ・ルイスの 「スプリング・ハイ」だった。
真由美ちゃんは拍手して「スティーヴィーさんですね!」と、にこにこ。
特徴的な半音階は、彼独自なので、すぐわかる。
愛紗は、なんとなく感じられる。
・・・・こんな音楽を、よく聴いていたような・・・。
「スティーヴィー・ワンダー、か」
そういえば、愛紗、と言う名の由来も
彼、スティーヴィーの娘の名前。
Isn't she lovely と言う曲は、そのIsyaちゃんが生まれた時に作った歌だ。
深町との最初の接点も、この曲だった。
突然、蒸気機関車の汽笛が鳴って。
「あ」友里絵はピアノを弾くのを止めた。
駅に停まっていた機関車が、発車していくのだった。
イベントふうの客車4両を引いて、ゆっくりと、力強く。
下り勾配を八代方面へ・・・。
真由美ちゃんは「SL人吉ですね」
愛紗は、その列車名を知らない。「初めて聞く名前」
真由美ちゃん「はい、今度、人吉まで入るのだそうです。SL列車。その訓練運転でしょう」
友里絵は、ピアノの蓋を閉めて、こちらに戻ってきて「そーなんだ。乗ってみたいなぁ」
真由美ちゃんは「今は熊本から宮地まで行っていますから、時刻が合えば・・・。」
菜由は「あの列車には乗務しないの?」
真由美ちゃん「はい。わかりませんけれども、人吉に入るのであれば
担当するかもしれません」
由香「楽しみね」
真由美ちゃん、にっこり、頷く「はい!」
・
・
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それから、5人は湯前線ホームへ。
一両だけの黄色いディーゼル・カーが
エンジンをからから・・・と鳴らせている。
その車両に乗り込んだ。
窓際に、ながーいシートが半分。
あと半分は対面の4人掛け、クロス・シートと呼ばれる。
その、ながーいシートに5人。
空気ばねなので、ふわふわ揺れる。
由香は「友里絵が弾けるのは知ってたけど、バイエルくらいだと思ってた」
友里絵「へっへー。」
愛紗「いい曲ね」
菜由「スティービー・ワンダーでしょ?」
友里絵「そう。」
由香「タマちゃんか」
友里絵「バレたか。あ、真由美ちゃん、タマちゃんってね。私達の友達なの」
真由美ちゃんは「ああ、驚いたぁ。あざらしちゃんかと思った」と、にこにこ。
愛紗「うふふ。なんとなく似てるかも」
友里絵「タマちゃんねー。おひげはないけど」
由香「最初はおひげ、なかったよ」
菜由「そうだっけ?」
真由美ちゃん「はい。最初は赤ちゃんあざらしで」
愛紗は、ちょっと連想していた。
スティービー・ワンダー。=娘の名がアイシャ。
深町。=元、ミュージシャン。
愛紗の命名者=スティービー・ワンダーをよく聞く人。音楽家?
その深町が、友里絵にスティービーの曲を教えていた。
連立方程式モデルのように、ちょっと複雑。
・・・・わたしの母を、深町さんはご存知なのかしら・・・・・?
そんなはずはないと思う。最初に愛紗が出逢った時に
何か、気づくだろう。
・・・・でも、なんとなく・・・懐かしい感じがする・・・あの人。
恋愛と言うのとは、少し違うような気持。
そんなことを、友里絵のピアノで思い出したのだった。
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