第235話 吉松にて

「これから折り返しですか?」と、愛紗はCAさんに。


CAさんは「はい。この列車で鹿児島へ戻って、お昼です。」



友里絵は「車掌さんなんて、すごいなー。」



CAさんは笑顔で「いいえ。誰でもなれます。」と、にこにこ。



友里絵も、にこにこ「あたしもなれるかなー。」



CAさんはこっくり。「はい。できますよー。」と、友里絵の口調に似せて。



みんな、微笑んだ。



お客さんがみんな降りたので「乗降、終了!」と、白い手袋で指差して。

乗務員室のドア脇にある、扉スイッチを降ろした。


ツー、と。バスみたいな機械式ブザーが鳴って、ドアが閉じる。




「小休止です」と、CAさん。



菜由は「あ、お疲れ様です」と、なんとなく習慣。



ほんの少しの間でも、休みたいし・・・・

乗務していると立ったまま。トイレも行けない。


そんな経験からの労い。



友里絵も「がんばってねー」と。にこにこ。


手を振りながら。



愛紗「きっちりしてるなぁ。」


菜由「肩こるね。」



友里絵「わー、おばさんっ」



由香「同い年じゃん」



菜由「家に入っちゃうと、楽だからねー。気兼ねないし。」




友里絵「それで、どんどん・・・。」



菜由「どんどん?」



友里絵「焼き、食べたいなー。」



由香「うまく逃げたな」



友里絵「ははは。でも、なんか食べたいね。買ってくるよ!」


吉松駅は高台。ホームから見下ろせる線路。

ひとつは、都城方面への吉都線。


駅からカーブを描いて、下っていく。



架線がないので、鉄道模型みたいに見える。


川に沿って、高台を走っている。




もうひとつは、今来た肥薩線の隼人方面。


それから、登っていく人吉方面。

けっこうな上り坂。




「友里絵、大丈夫かな。30分もないよ」と、由香。



菜由「まあ、来なかったら一本遅らせればいいし。」



「そうね」と、愛紗も、のんびり。



風さわやか。静かな高原。


火曜日の旅。


気持もおだやか。



「乗る列車は・・・あ、あれか」と、菜由。


対面ホームに、位置を変えて停車している臙脂のディーゼル・カーは

エンジンをがらがらがら・・・と、響かせたまま。


綺麗にリフォームされている、比較的新しい目の車両。


内装にも木材が使われていたりするのが特徴。




友里絵は、何か抱えて「おーまたせ!」と、駆け出してきた。


「さ、乗ろう!」と、にこにこ。「あれ?、あの汽車?」



愛紗「そう、あれね。」



由香「何買ってきた?」



友里絵「蒸れ蒸れ肉まんじゅう。」


由香「・・・・あ、いいのか。別に。」



友里絵「なんだよぅ」(^^)。



由香「なーんか、アンタが言うと違う意味に聞こえる」



菜由「ははは。なーんかね。」





友里絵「蒸れ蒸れマンからしたたる汁・・・・。」




由香「・・・・あ、いいのか。」


菜由「考えすぎか」



愛紗もおかしい。なんとなく。



友里絵は、ハハハと、笑って。 Vサイン。



「サインはV!」。



菜由「いくわよー、ひろみ」と、構えるポーズ。



友里絵「それはちがーう」



由香「Xこうげーき!」と、腕をふって。



友里絵「そう、そっちー。**Xこうげーき」



由香「ヘンな間をいれるな!」と。



友里絵は「はは」と、笑って。列車へと駆け出した。





峠を越えていく人は少ないようで、乗客はまばら。


平日だけど、観光列車みたいに記念撮影パネルがあったりして

ちいさい子でも楽しめるような、車内になっている。


「なんか、かわいいね」と、友里絵。


「うん」と、由香。



「遊園地みたい」と、菜由。



「かわいいね」と、愛紗。





どこか、別世界に来たような気がする。

大岡山の方だと、こどもの声ですら騒々しく聞こえるのだけど。

こちらの子供の声は、至って可愛らしい。



「引越した方がいいかなあ」と、菜由。


愛紗「うん・・・・。」



友里絵「なんで?そう思うの?」



「子供は、こういうところで育てたいな、って思ったの」と、菜由。



「まあ、菜由にとっては故郷だし。でも、台風とか怖くない?」と、由香。



菜由は「それはそうだけど、友里絵ちゃんとかさ、愛紗とか。

見てると、なんとなく・・・自分の子にそういう思いをさせたくないな、って。」



友里絵「まー、あるねぇ。あたしだってさ、こういうとこで生まれてたら

かわいい子に育ったんだろうって」



由香「ムリムリ」



友里絵「まあ、そうだけど」(^^)。



由香「ハハハ」




「吉松ーくん♪」と、友里絵。



由香「来たな」


「お粗末、唐松、十姉妹、ちょろ松、一抹」友里絵、にこにこ。



由香「字が全然違ーう。」



友里絵「やっぱダメか、お嬢様は。夫人ならなれるな。お蝶夫人!

いくわよーひろみ」と、構えるポーズ。



由香「さっきやればよかったな」


友里絵「じゃ、エマニエル夫人♪じゃんじゃかじゃかじゃーん♪」エアギターで歌う。

フランス語ふう。



由香「それは・・・あ、いいのか。わかんないだろ。絵ないもんな」




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