第173話 マイクロ・バス

東京大学の弥生門から、東京メトロの本郷三丁目駅までは

15分くらい掛かる。

住宅地の路地を歩いて行き、バス通りに出ると

ビルの一階に入り口があり、地下が駅である。

その構造に、すこし驚いてしまう深町だったが、もう慣れた。


東京駅から直接、この駅に乗り入れるには

東京、丸の内の地下を延々20分ほど歩かなくてはならない。


東京駅ー御茶ノ水まで中央線に乗り、新御茶ノ水ー本郷三丁目

としても


その、御茶ノ水の乗換え時間が同じくらい掛かる。



ので、朝は山手線に乗り、西日暮里ー本郷三丁目

と言う乗り方もあるが・・・・。


何せ、都会の鉄道は遅延・事故がつきものだから

臨機応変に動かないと遅刻してしまったりする。




「これも戦場かな」と、ちょっと笑いながら

きょうは帰りなので、そのまま素直に東京駅までメトロを使って

東京駅の前に出て、地上を歩く事にした。


どうも、あの地下通路と言うのは苦手な彼である。


なんとなく、空気が悪いし

音が響く場所で、おしゃべりをする人たちも苦手だった。



「そういえば、バスで大声で話す人を注意してクレームになった事もあったな」と

思い出す。


騒音の大きい路線バスの、通路を挟んで左右から話したり。

携帯電話を使ったり。

結構、高齢者に多いのである。若者はそういう人は少ない。



深町は「お静かにお願いできますか?」と、睡眠不足なので

神経が昂ぶっていたのだろう、そう言うと

クレーム電話を会社に入れるお婆さんが居たりした。




ちょっと、性格に問題があるらしく・・・・。

その人は、しばらく後に

バスを降車したあと、バスの直前を横断して

轢死してしまったそうである。


そんなふうに、穏やかでない性格と言うのは

その人そのものが滅びる原因にもなったりするーーーー。












同じ頃、指宿の愛紗たちは

マイクロ・バスに乗って、おとなしくしていた。



と言うのも、狭い空間だから

話すと運転手さんに迷惑だと思ったから、である。

その辺りはガイドなので、客が

傍若無人に騒ぐのが、如何に安全運行の妨げになるかと言う事を

よく判っていたからだった。



楽しい旅、とは言え

バスが事故を起こしたら、楽しくは無くなる。

そんな事くらい解らないのだろうか?


運転指令の野田などは、スクール・バスなどで学生が騒ぐと

「うるせー、てめぇら、降ろすぞ!静かにしやがれぇ!!」と怒鳴り

苦情を貰ったりしていたが(^^)


悪いのはドライバーではない。金払うんだから、と傲慢な態度の客である。





まあ、知恵を使うドライバーは、今は

耳栓状のbluetoothイヤホンを使っていたりするが・・・・。それが

発明される前の話である。







「出発します」と、マイクロ・バスの運転手が言い

中扉が自動で閉じた。



「不思議だな」と、友里絵は思う。

空気シリンダーでもないのだが。電気仕掛けのようだ。




マイクロ・バスは、駅前から海岸沿いへ向かう。

すぐに町並みは無くなり、開けた視界になる。

いかにも風通しが良さそうで、台風が通り抜ける地域らしい。

フェニックスの木が、てっぺんだけに葉がついていて

そよそよと、風に揺れている。





路線バスよりも軽快な、マイクロ・バスは

広い道を海岸に向かう。

海岸沿いのT字路の向こうは、海だ。

そこを左折、あまり建物のない海岸沿いを、鹿児島方面に向かって走り・・・・。


5分くらいで、到着した。






機械式ブザーが ツー、と、愛らしい音を立てて

中扉が開く。



「おつかれさまでした」と、運転手が振り返り

自身もドアを開けて降車。



愛紗はふと思う。「転動防止措置?」と

大型バスだと普通にある、車止めの設置だが・・・・(^^)職業的な感覚だ。



マイクロバスにはないのだろう。





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