第114話  とり天

由香は、大分名物の「とり天」。定食なので

いろいろ、オマケつき。


「いただきます」と、小さめのてんぷらを取って

食べてみる。


「甘酸っぱいね!」と、衣が少し塩味なので

独特の味わい。



「友里絵?」と、由香が言うと


友里絵は、フォークで少し大きめのを。



「あ、そんなに大きいのーあたしが食べようと思ってたのに」と

由香。


ごめーん、といいながら友里絵は「いっただきまーす。あ、ほんと。お菓子みたい。」



「もうちょっと北の方の料理ね、これ。」と、愛紗。



「国東のほうだったかな」と、伯母さん。



「そうなんですか?」と、由香。



「うん、昔はあんまり・・食べたことない」と、愛紗。



「普通のてんぷらなのね。甘酢がないと」と、伯母さん。



「そうそう、さっきの話だけどさ愛紗」と、由香。



「なに?」



「休職って方法もあるみたいよ。タマちゃんがさ、研究所に呼び戻された時

最初はそうしようとしたんだって。でも、他の仕事に就くのはダメらしくて。

それで、書類上は退職扱いだけど。

いつでも戻れるんだって。」



と、由香。




「ふーん・・そんなのあるんだ。」と、愛紗。



「別に働かなくてもいいんだったら、何がしたいか見つかってから

働くってのもいいかも」と、由香。


「でもさー、履歴書に空きがあると再就職って難しいって」と、友里絵。



「いろいろあるんだなぁ」と、愛紗は自分が何も知らない事に

少し、驚く。



同じ年のみんなは、こんなによく知っているのに。




「うん、まあ・・・国鉄みたいな硬いところはそうね。探偵が調べるもの」と、伯母さん。



「かっこいい!」と、友里絵。



「都知事と同じ、青島です」と、由香。


「それも古いぞ」と、友里絵。「あ、でも、ほんとに青島だもんね。由香」



「そうそう、ははは。」




「何を調べるんですか?」と、由香。



「思想とか・・行動とか。いろんなところで聞き込みをするんだって。

農協もそうね。銀行とか。だから、そういう勤めのお嬢さんは

いい縁談が来るって」と、伯母さん。




愛紗はふと思う。


そうして、いい縁談を貰って、お嫁に行って。

そういう人生に、私は向いているのかな・・・・。


とか。





「いい縁談かー。あたしらには縁がないな。はは」と、由香。


「あたし「ら」って、なんだよ、一緒にするな」と、友里絵。でも笑ってる。



「なんだ、中卒女が」と、由香。



「はははー冗談冗談」と、友里絵。



「中卒なの?}と、愛紗。



「いやいや、友里絵ね、高校中退で専門学校行ったから。

学歴は専門卒なんだけど。冗談だって」と、由香。




「探偵は、そういう見方をしないから。大丈夫。おふたりとも

いい縁談が来るわよ。」と、伯母さん。



「そうなんですか?」と、由香。



「そう。人柄を見るの。だって、東山みたいな大企業に採用されたなら

調査されてるわよ」と、伯母さん。


「そーなんだ!。やったなぁ。玉の輿玉の輿」と、由香。


「あたしはタマちゃんでいいもーん。」と、友里絵。



「タマちゃんって?」と、伯母さん。



「うん、友里絵がね、グレてた時、タマちゃんに遇って更正したの。ね」と、由香。


「不良みたいに言うな」と、友里絵。


「不良じゃん」と、由香。


「そっか。アハハ」と、友里絵。


「とても優しい人でね。友里絵がちょっと荒んでたけど、普通の女の子みたいに

大事にしてくれて。かわいい、かわいい。って。

それで、友里絵は更正できた」と、由香。



「いい人なのね」と、伯母さん。




「愛紗のこともね。かわいい愛紗って。」と由香。



愛紗は恥かしい。「あれは、歌の題名」



「ああ、それで名付け親の話があったの」と、伯母さん。



「会って見たいなぁ」と、愛紗。



「そだねー。ねね。探偵さんしようよ。その人探すの!」と、友里絵。


「都知事と同じ、青島です」と、由香。


「それは刑事だって」と、友里絵。



「そっか。まあ、似たようなもんだ」と、由香。



「おもしろいね、でも・・・どこに住んでるかとかは・・・

お父さん、お母さんなら知ってるだろうけど、行きたくないでしょ?」と、伯母さん。




「うん」と、愛紗。



「でも、国鉄に入るんだと、話さないとね。」と、伯母さん。



「また怒られるんだろな」と、愛紗。



「私が話してあげるわよ」と、伯母さん。


「ありがとう」。と、愛紗。


窮地なので、本当に嬉しい。


ちょっと泣けそう。



「さ、ご馳走様。」と、伯母さん。



「ごちそうさまでしたー。」と、三人。


「汗かいちゃったから、もういちどお風呂行って」と、伯母さん。


「優雅な暮らし」と、友里絵。


「バスガイドはねー。」と、由香。



「ほんと」と、愛紗。思い出したくないくらい。



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