第107話 1632列車、鬼瀬、定発!

列車は定刻、16:45に

大分駅を出る。


ディーゼル機関車は、煉瓦色の

凸型のもので。


よく、入れ替え機関車で見るタイプ。


デッキの前のトコにマンガの看板があって

「タウンシャトル」と、書いてある。


ごとごと、ごとごと。

ゆっくり走り始めた。


車掌さんのアナウンスが入る。


ご乗車ありがとうございます。この列車は豊後森行き

各駅停車です。


中判田、阿蘇方面行きではございません。

久大本線経由です。



途中、豊後国分、向之原、庄内、湯平、由布院に停車いたします・・・。



「なんか、のんびりしてていいな」と、友里恵。


「そうだね」と、由香。「あー、これだけで旅に出て良かった!」と。


「ほんと」と、愛紗も思う。



「ねね、さっきの名前の話だけどさ・・・。愛紗って、曲の名前なんでしょ?」と

友里恵。


「誰に聞いたの?」と。愛紗が尋ねる。




「タマちゃん」と、友里恵。



車窓には、夕陽。


ごとりごとり、と揺れる列車と

一緒に揺れる。



踏み切りの警報機が、かんかんかん・・・・。



長閑だ。


すぐ、停留所っぽい駅に止まる。



まだ、市内っぽい。



結構乗降はある。



「ああ、そうか・・・。」と、愛紗は思い出して、ふたたび。


あの、深町のバスに乗った時の事。





「その話をしてたの?」と、愛紗が聞くと



友里恵は「うん。前にさ、タマちゃんが愛紗の事気にしてた時ね。

辞める前。言えなかった事があるんだって。」




「言えなかった事・・・。」と。愛紗。



由香は「友里恵、だめだよ。オトメちゃんをその気にさせちゃ。」と。



「そっか。ごめん。愛紗、あのね。あの曲は、赤ちゃん。あの歌手の。

それが生まれた時に、かわいい、かわいい、って歌った歌なんだって。」


と、友里恵。



「あ、そう・・・。」愛紗は、まあ、予想通りと言うか・・期待はずれと言うか(笑)。



「あたしらに、愛の告白の事なんて言う訳無いじゃん!仮にそうだとしても」と、由香。


「これこれ、アンタこそ、オトメちゃんを空想に誘うな!」と、友里恵。



「すまん」と、由香。




「それは分かってるけど・・・ね。だって、わたしってあの時18だったでしょ?

43歳の深町さんが、女として見てくれる訳ないものね。」と、愛紗。


「だから「赤ちゃんみたいにかわいい」って事じゃない?」と友里恵。



「ほら、オマエもオトメちゃんを空想に誘う!」と、由香。



「あ、そっか、ははは。だって、愛紗って、空想してるとき

かわいいんだもん」と、友里恵。



「やだ・・・。」と、愛紗は恥かしくなった。



「誰だってそうだよ。友里恵だって、可愛かったよ。コンビニでバイトしててさ。

片思いで切ないよー、って。泣いちゃって。瞼が腫れちゃって。」と、由香。


「昔のことを・・・と、友里恵も恥かしくなった。



「そんなこと、あったの?」と、愛紗。



「そうそう!17歳だったしねー。友里恵。

ラブラブだったもんね。でも・・・さ。女として見てくれないって。」と、由香。



列車は向之原に着く。


結構大きな駅で、学生らしき人たちが、ぱらぱらと降りる。



のんびり停車。反対側からの特急列車が停車し、すれ違い。



メタリック・グリーンの大きな車体。


「ゆふいんの森」だっけ。と、由香。



「そうそう」と、愛紗。


「乗ってみたいねー。あ、CAが乗ってる」と、友里恵。



黒い、フォーマルのようなスーツ。ネクタイ。


「かっこいいね」と、由香。


「あれなら、愛紗なれそう」と、友里恵。


「でも、少し痩せないと」と、愛紗。


「そだね。下半身が特に」と、友里恵。


「あ、ひっどー。気にしてるのにぃ。」と愛紗。



「でも、タマちゃんはかわいいってさ」と、友里恵。


「お尻を?」と愛紗。


「べー。うっそぴょーん」と、友里恵は赤い舌を出して。


「あーん、ひっどーいもう。」と、愛紗。



「タマちゃんがさ、お尻の話なんてするわけないじゃん」と、由香。


「それもそうだね」と、愛紗。




列車は賑やかに、河沿いの鬼瀬を通る。


停車する。単線なので、すぐ発車。


すこし遅れているらしい。

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