第106話 久大本線1632列車

「車掌さん、かっこいいねー」と、由香。


「ホレたか?」と、友里恵。


「じゃあ、車掌さんと結婚したら愛紗の親戚だぁ」と、友里恵。


「あ、そうだね。」と、愛紗。


「まあ、車掌さんは結婚してるよ」と、友里恵。


「愛紗、知ってる?」と、由香。



「さぁ・・・だって、顔も知らなかったくらいだし。」




「なんで愛紗って分かったんだろ」と、友里恵。


「名前が珍しいからでしょ?」と、由香。



「そうね。あまり聞いたこと無いもの。」と、愛紗。



「ららちゃんとか、るるちゃんとか。居るけどね」と、由香。


「キキとララかいな」と、友里恵。



「そうかも、あたしの友里恵ってのも、ユリアにしたかったんだって、お父さんが。

でも反対されて、親戚一同に。それでゆりえになった。」



「まあ、今ならそのまま・・でもユリアって聞かないね。」と、由香。



「ね、おなかすいてない?」と、愛紗。



「そーだねー。じゃ、うどんにしよっか。おばさーん。うどん!」と

スタンドの、さっきのパット・ベネターさんに。



「なんにする?」とおばさん。



「わたしは・・・・わかめ。冷たいの。」と、愛紗。



「あたしは・・・じゃこ天ってなに?」と、友里恵。


パットさんは「愛媛の名産でねー。おいしいよ。さつま揚げに似てるけど、

お魚なの。」と。



「じゃ、あたしそれ。由香は?」



「あたしは・・・・コロッケ!」



「おっさんっぽーい!」と友里恵。



「そんなことないよー。改札の女の子もよく食べてるし。

CAの子も」と、おばさん。



「CAって?」と、友里恵。



「ほら、飛行機のあれと同じで。」と、由香。




「ああ、客室乗務員。あれならできそうだね、私達」と、友里恵。


うどんをつるつる。




「国鉄に入るの?」と、パットさん。



「まあ、夢の話。あたしたち、バスガイドなの」と、由香。



「CAなら募集出てるね。結構きついみたいね、仕事。」と、おばさん。



「そうだろうなぁ」と、三人、頷く。



バスよりは楽だろうけど。



「じゃ、バスガイドから転職の旅?」とパットさんが聞くので


「ううん、この子はドライバーなの。元ガイドだけど。」と、由香。



「へー、凄い。日野さんの姪御さん?ドライバーなの?」と、パットさん。




愛紗は「いえ、なろうかなーと思ってたけど。やっぱり怖くて。」と。



パットさんは「そうだねー。女の子のする仕事じゃないね。

国鉄の方がいいんじゃない?日野さんみたいに駅員とか」




「ああ、それもいいね。愛紗、そうしたら?」と、由香。




ちょっと愛紗も迷っているので「それもいいかも」と、なんとなく答えた。


・・・けど。


なんとなく違うような気もする。




「久大本線は?6番線か。」と、友里恵は

看板を見て。


改札のところに大きな回転式の列車表示があって。


昔のデジタル時計みたいに、文字が回転するタイプ。



「15時45分かな。」と、由香。



「早く着くね、一時間くらい」と、愛紗。



「良かった、良かった。」と、友里恵。



地下道をくぐり、クリーム色に塗られた壁を見ながら

「6」の行灯を見つけ。


「なんか、懐かしいね」と、友里恵。



「年がバレるぞ」と、由香。


「あはは。年って程の年でも・・・・」と、愛紗。



階段を上がってホームに行くと。待っていたのは・・・。



「あ、赤いね。」と、友里恵。



「電車じゃないんだ」と、由香。



ディーゼル機関車が引く、6両の客車は

色あせてはいるものの、昔ながらの雰囲気。



「ブルー・トレインみたい」と、友里恵。


「レッドでしょ、英語0点!」と、由香。



「もう無いって、試験」と、友里恵。



「そっか。わはは。でも、どっか受けたらあるんだね。試験。」と、由香。




愛紗は「あーそうか。なんか自信なくなってきた。」と。



その客車の5両目に、三人で乗る。



がら空き。



「土曜だもんねぇ」と、由香。


「そっか、通学列車か」と、友里恵。




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