第105話 日豊本線1列車ー9021列車 大分到着!

♪ハイケンスのセレナーデ の、オルゴールが鳴る。


「ご乗車おつかれさまでした。

列車は定刻よりおよそ2時間遅れで

まもなく、大分に着きます。

お出口は左側、1番乗り場に着きます。

日豊線、豊肥線、久大線はお乗換えになります。

本日は列車遅れまして、お急ぎのところご迷惑を

お掛けいたしました。お詫び致します。

大分では、列車切り離しの為

およそ10分停車致します。

ホームにてお買い物の際は、お乗り遅れにないように

お願い致します。


東京よりご案内致しました車掌は、大分車掌区の

8号車日野、14号車加藤がご案内致しました。

長らくのご乗車ありがとうございます。


まもなく、大分ですーーー。」



オルゴールが鳴る。日野車掌の声も嗄れ気味である。



「荷物、荷物」と。

友里恵は、もちろんバッグひとつであるから

忘れとうもないが。



由香も同じく。


愛紗は、研修の後なので

結構多い荷物。


それでもバッグふたつ。



「個室の中を見て・・・と。


小物を落としたりすることは、よくある。


毛布やシーツの間に、アクセサリーとか。

荷棚にあるコンセントに、充電器を差したままとか。


割とある事だ。



「よし!」と、点検OK。


このあたりは現役バスガイド と、元ガイドである。


忘れ物をするようでは旅のコンダクターは務まらない。




廊下への扉は、2階は引き戸なので

開けておくと、海が見える。


別府大学ー別府ー南大分。



山側には、温泉の湯気が立ち上っている辺りだ。



広い国道が4車線、6車線。

以前は、ここを路面電車が走っていたのか

レールの跡の見える旧道。


そういう景色が、思い出のように飛び去っていく。



「旅っていいな。」と、愛紗は思う。



同じようにして、友里恵も由香も見ているでしょうと

愛紗は思う。



でも、隣室に声を掛けず、もう少し列車を楽しんでいたい。

そう思った。




大分市街に入り、狭い路地や温泉、お弁当のお店などが見える。

その辺りになると速度は低く、徐行程度。



「梅の家」と言うお弁当の老舗が見えたりする。


「じゃこめしが美味しいのね」と、愛紗。


おしょうゆとしらすがメインの、混ぜご飯なのだけれども

そのシンプルな味わいがよかった。


素朴な、大分に似合いのお弁当だった。



スムーズに、「富士」は、大分駅に着く。


廊下に出ると、由香は待っていて。


友里恵は、個室の中で景色を見ていた。


「あー着いちゃった。」と、由香。




「楽しかった?」と、愛紗が尋ねると



「うん。飛行機乗らなくて良かった。個室だとのんびりできて。」と。



「そう、私もそれでいつも、この列車。」と、愛紗。


宮崎は個室では行かないので、大抵は大分で降りてしまうけど。

そこから電車特急の「ソニック」で行った方が楽で、早い。



おじいちゃんと一緒の時は、ふつうの寝台で行ったけど。

乗り換えがないから楽だ、と

おじいちゃんが言うので。



ホームに着くと、かぼすを切ったかたちのベンチ。



「かーわいい」と、友里恵は写真を撮っている。



由香と撮り合って。


「ねね、愛紗も入って」と。友里恵。


「誰がシャッター押すの」と、由香。


「あ、押してあげましょう」と言ったのは

8号車から降りた日野車掌だった。



「ここで交替ですね」と、愛紗。



「はい。いやー疲れたな。今回」と。




「おつかれさまでした。」と。由香。


「あ、じゃ、車掌さんも一緒に。」と友里恵。


「誰がシャッター押すの」と、由香。



「わたしが押してあげる」と言ったのは


1番線ホームにある、うどんスタンドのおばさんだった。

梅の家のスタンドなので、お弁当もあるけど


おにぎりとか、お稲荷さんがよく売れる。



「あ、すみません。」と愛紗が言うと


「ああ、あなた。日野さんの姪御さん」と、おばさん。


ちょっと、パット・ベネターみたいなすっきりした顔立ちである。




「はい。よく覚えていてくださいました。」




「ここ押せばいいのね?」と、パットさん(笑)は

三角巾で白い割烹着のまま。



ばちり。



「よく撮れたかな。」。



「ケータイでも撮っておこ」

「そだね。」



「じゃ、おばさんも」



「誰がシャッター押すの」


「そっか。はは」


「交替で」



「そうね」


と、賑やかな旅の終わりは


おセンチにならなくていいな、と

愛紗は思う。




「では、私は点呼がありますから・・・・あ、特急券は払い戻せますから、窓口へどうぞ」と。

日野車掌。



アタッシュケースと、バッグを持っていて。

カンテラもある。


「なにそれ」と、友里恵が愛紗に聞く。


「2時間遅れると、特急料金は無料なの」と、愛紗。


「やっほー。」と友里恵。


「3150円だけよ」と、由香。


「なんだ、9450円全部じゃないのか」と、友里恵。



「そう、6300円は寝台料金なの」と、愛紗。


「詳しいなー。」と、友里恵。


「だって、国鉄職員の姪だし」と、愛紗。




「なーるほど」と。由香と、友里恵。




それじゃあ、と。改札の中にもある

払い戻し窓口に特急券。


由香と友里恵のは、車内発券だからロールの紙だけど


愛紗のは、普通の磁気券。







「ちょっと、勿体無いな」と、思うけど。


東京16:03ー大分11:45


富士 号  B個室 ソロ


10番 個室


¥9450


三原駅MR2 発行



とある。



「いつもなら、記念に持って帰れるんだけど」と、愛紗。



「まあ、3000円だもんねー。レコード買える」と、友里恵。


「今はCDだろ、昭和ババア」と、由香。


「由香だってそうじゃん。」と友里恵。



わはは、と、煩いJKそのまま(笑)


ぎりぎり、3人とも昭和生まれなのだった。






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