第43話 家族

そこで、深町の母が来て


「あ、それじゃ」と、深町は無関係を装う。



愛紗は「?」



深町の母は、なんとなく訝しげに

愛紗は見て



なんとなく、疑念。



愛紗は「ああ、少し認識が」




自身の家のおばあちゃんも、時々そんななので

分かる。



耳が悪くなると、妄想がひどくなるとか。





それなので、とばっちりが来ないうちに、と

後ろ手で、深町はバイバイ、とした。




愛紗も、退散。




変に勘繰られては大変。




女の嫉妬は怖いのである(笑)。




車に戻って「あ、そーだ。お母さんに電話しておこう。」





携帯で掛けるけど、IP電話で掛けた。


3分8円。



便利になったな、と思う。




「あ、お母さん、あたし。来週帰る。

休暇なの。お友達がね3人。来るけど。

どうする?泊めていい?」




母は、なぜ帰るのか詮索。



「どこも同じだなぁ」と、苦笑い。




でもまあ、それだと

系列のホテルにでも泊まった方がいいかな、と

海辺の、大型リゾートを見てみた。

空港のそば。



割引が効くし、組合のチケットを貰えば

無料。


このリゾート、あまり大きくしすぎて


いつもがら空きなんで


無料でも泊まってもらえればと

社員には解放。



食事とかで、採算が取れるのだとか。




まあ、一般には5000円くらい取ってるので

それは内緒らしい。



「組合って、あ、そっか。電話しておこう。まだやってるね。」と、愛紗。



バスガイドは、この手の仕事は慣れている。




組合は専従の人がいるので

大体、夜でも居る。



「これで、よし。」



ココアのエンジンを掛けて。



コラムATを、D。



呆気なく走るけど、そのくらい

バスが安直ならな、と思う。


「慣れると出来るのかな。」



とは思うけど。



故郷に帰ると、いろいろ詮索されるし



それなら。



運転士になった事は伏せておいて



友利絵たちを連れていくと、バレそうだ(笑)。




休暇が住んだら、とりあえず大分のおばさんの

所へでも行こうかな。


それから、ゆっくり行き先を探してもいいかも。




なんて、愛紗は思う。



「深町さんも、今はいないし」




なーんとなく、それが気になってたような気もする愛紗。




坂道を下ろうとすると、遠い、町明かりと

ぼんやり岬。


星空と渚。




「遠目に素敵だけど」




確かに、乱暴なドライバーが増えた感じ。





制限速度で走っていると、車間距離を詰めて

追い立てるように走る車が多い。



そんなの、故郷には居ない人だし

居ても暴走族くらいだった。




「やっぱり、帰った方がいいのかな」



ワンルームに帰って。のんびり寝よう。



車を、坂道の

駐車場に止めて、すぐ前の階段を上る。



誰かが声掛けてくれないのは、ちょっと淋しいけど


でも、束縛されるよりは、いいかも。




外階段とは言うものの、中央階段の上は屋根。


面白い構造である。




そこに、燕の巣があって

そろそろ、来るかな、なんて

期待したけど。



「もう、会えないかもね」



大岡山から帰るんならそうなる。





305のドアを開けて

真っ暗な所に誰か居そうで怖いんだけど



幸、そういう事は無かった。




「刑事ドラマみたいなことって、ないよね」





あって欲しい訳もないが。




なんか、人間って、社会って面倒臭いと

愛紗は思ってて



別に、かわいいお嬢さんって生まれたかった

訳じゃないのに


そのせいで、暴力に怯えなくてはいけないなんて。


護られるのも、なんか嫌だ。



そんな気持ちが、漠然と


凛々しい制服で、安全を守る戦いをしている

鉄道運転士に憧れたのかもしれない愛紗であった。



それは、女でも出来る仕事。


機械と、文明。


そして社会。



暴力なんて、下らないものは駆逐してしまう。



そんな、無意識があったのかもしれない。



ただ、守る社会はやはり愛すべき存在の為の

物で



男は、その為に例えば生命を失う事も

厭わない生物だと言う事。



その為に女が居て、愛があるのだ。






それで、老獪なガイドのイジメも大嫌いだったし


菜由は、それで石川に恋した。



暴力を排したから。




「いいなーー菜由は。」



いい人に出会えて。



そうかと言って、愛紗が恋する相手が

石川でないのもまあ、面白いところである。


最初に石川に助けられたのは愛紗である。



だから、石川が愛紗を好きなのか?と言うと

そうではなく



石川は、日本人であるから


心がある。


整備士だし、克己しないと下手をすると

死ぬ職業故



自律する。



そういうところから、自然に


己を制する、ひいては



そうできない奴を許せなかっただけ、なのだ。



それが正義である。




日本人は、皆それを持っているが


岩市のような、堕落した連中は


実は、日本人の顔をしたそうでない人なので


それを持っていない人もいる、と言う事である。



日本も今は多民族になったので

見分けが付かないけれど

行動で分かると言う事である。




例えば田村や、野田のような

人は、日本人だし


そうでない、自律心がない人は


路線バス、なんて言う危険な職業では


淘汰されてしまう。




そういう現場だ。



翌日は、最初から整備服のつなぎで出勤する愛紗だったが


気持は軽い。




無理しなくてもいい、のどかな田舎で働けると思うと

危険なここの交通に慣れなくても良くて


ただ、運転技能と営業、接客などを覚えればいいから

本社研修の後で、転属願いを出せばいい。


園美もその制度で、島根から転勤してきたのだ。


まあ、彼女の場合は他に、愛の逃避行(笑)があったのだけど。

それは、女には切実な問題である。



細川が面倒と言う所以である。




整備服を着るのは、なんとなくヘンな感じの愛紗で


かっこいい制服を着たい、と思う愛紗でもあった。


それは、まあ、路線研修になってからである。




いってきまーす、と言っても誰もいないワンルームだし



隣人もよく知らない。


「いってらっしゃい」なんて言う近所の人もいない。



そういう、都会的な感じが少し淋しいと思う

田舎育ちの愛紗であった。





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